トライアンフ スクランブラー
- 掲載日/2008年09月03日
- 取材協力/トライアンフ モーターサイクルズ ジャパン 構成/バイクブロス・マガジンズ編集部
名車TRの血統を受け継ぐ
クラシカルなスクランブラー
「トライアンフ」はライダーにとって特別な存在だ。かつて黎明期の国産モーターサイクルは、当時圧倒的な性能を見せ付けていたトライアンフをベンチマークとして、今に繋がる素地を築きあげた。その後、日本車の急速な台頭によりその栄光は一時途絶えたのだが、1990年にイギリス・ヒンクリーの地で復活したトライアンフは、個性的なモデルとそれを支える先端技術、そして今も続くクラフトマンシップによって、他のメーカーにはない魅力で多くのライダーを魅了し続けている。
?今回インプレッションする「スクランブラー」は、日本中のバイクメーカーがトライアンフを目標としていた1960年代の名車、TRシリーズを現代の技術で再現したモデルだ。古き良き英国車のスタイリングを現代へと伝えるトライアンフの人気モデル「ボンネビル」をベースに、不整地走行向けの装備を投入。今のようにオンロードとオフロードのカテゴリ分けがまだ明確ではなかった時代に活躍した、オンロードバイクにオフロード装備を加えたスクランブラーというカテゴリを名実ともによみがえらせている。ノスタルジックなルックスと現代の技術が融合したスクランブラーの実力と魅力に迫ってみたい。
トライアンフ スクランブラー 特徴
伝統的なスタイルに秘められた
現代技術の安心感とポテンシャル
スクランブラー最大の特徴は、1960年代のマシンを忠実に再現したスタイルだ。ボンネビルをベースとしたエンジンに、オンオフタイヤを履いたスポークホイール、アップマフラーの組み合わせは、バイクの歴史を紐解けば必ず出てくるあの時代を忠実に再現している。
メッキフェンダーやツートンカラーのタンク、ブーツ付きのフロントフォークなど、どれもノスタルジックで、まるで図鑑からそのまま飛び出してきたかのようだ。しかし、見た目こそ懐かしさを感じさせるものだが、中身はしっかりと現代技術で作りこまれているのが大きな違い。例えば、一見キャブレターように見える燃料供給機構は、このモデルのために特注で生産されたフューエルインジェクションシステム。始動性は抜群でライダーをわずらわせることはない。ブレーキもシングルディスクながら確実な制動力を確保しており、サスペンションも街中から高速道路まで安定した挙動を楽しませてくれる。エンジンも形式は古式ゆかしいバーチカルツインながら、中身はまったくの別物。ユーロ3排気ガス規制に適合させながら、60PS/6500rpmと十分な性能を実現。
伝統的なスタイルの中には、現代の技術に裏づけされた確かな利便性や安心感、そしてポテンシャルが隠されているのだ。しかし、それをおおっぴらに主張せず、慎ましやかに内に秘めることで、回顧主義でもなく性能偏重でもない、新しいモデルとしてのスクランブラーを印象付けている。
トライアンフ スクランブラー 試乗インプレッション
テイスティな鼓動で楽しむ
道を選ばないスポーツマシン
スクランブラーにまたがって最初に感じたこと、それはポジションの「男らしさ」だ。肉厚のダブルシートに腰かけ、幅広のアップハンドルに手を伸ばせば、昨今のコンパクトなネイキッドマシンにはない力強いスタイルの出来上がり。これだけでも、あの時代の名車の後継にまたがっているのだと、心が沸き立ってくる。セルスターターを軽く押してエンジンに火を入れてみると、意外なほど大人しく一瞬戸惑ってしまったが、走り出せばこの印象はがらりと変わる。スロットルをじわりと開けていくとさっきまでのジェントルさはどこへやら、270°クランクが生み出す不等間隔爆発とともに押し出すような加速でスクランブラーは突き進んでいく。一気に加速してしまうのではなく、力が盛り上がっていくようなこの加速感は、1度味わってしまうとつい何度も体験したくなってしまうほどだ。足回りは程よい硬さで、路面の感覚がつかみやすい設定。過度にクイックではないがシャープなコーナリングを楽しめる。ブレーキはフロントがシングルなだけに少々心配だったが、実際のライディングでは特に問題は無く、ブレーキのタッチも硬さがない扱いやすもので、不安なくブレーキングが可能だ。
少し気になったのがアップタイプマフラーの熱さ。ヒートガードが付いているものの、渋滞を長時間走行した場合は足に熱さを感じてしまった。とはいえ、通常走行時や高速道路などでは気になるほどでもなく、むしろ往年の名ライダーたちもこの熱さ感じながら走ったのかと想像を巡らせると、自分もその仲間入りをしたようで思わず口元がゆるんでしまう。こういったライディングでの「ドラマ性」もこのバイク魅力の一つ。スクランブラーはただクラシカルなだけのバイクでも、先進技術の集大成でもない。その2つが見事に溶け合うことによって、他のバイクにはない個性的な味わいを生み出していると言えるだろう。
トライアンフ スクランブラー こんな方にオススメ
ルックスに惚れたなら間違いなし
味わいのあるモダンクラシック
スクランブラーのルックスにやられてしまったライダーなら、間違いなくおすすめできる。1960年代の名車の直系とも言える美しいスタイリングは、まさに唯一無二といっても良いほど。最新技術を随所に採用しながらも、それを感じさせない細やかな気配りが作り出す造形美は、トライアンフのこだわりを感じさせてくれる。また、このモデルならではの乗り味は、味わいのある1台を求める向きにおすすめしたい。ただ速い、性能が良い、ではなく、ライダーの「ハート」を盛り上げるポテンシャルを求めるのならば、スクランブラーはぜひ選択肢に入れておきたいところだ。
トライアンフ スクランブラー 総合評価
古き良き時代をよみがえらせる
タイムマシーンのようなバイク
ライダーの大先輩たちが語る古き良き時代、1960年代には今から戻ることはできない。映画や本の中の憧れの名車たちは、これまでずっと手が届かない存在だった。スクランブラーはそんな時代の壁を飛び越えてやってきたタイムマシーンのようなバイクだ。中身は確かにイマドキの機械が詰まっているけれど、ルックスや独特のテイストは、あのころの空気を今のライダーへと伝えてくれる。ただの懐古趣味的なバイクに終わらず、現代にあわせて名車を再構築してみせたトライアンフには尊敬の念さえ抱いてしまう。あの時代にバイクに心焦がれたことがあるのなら、スクランブラーは1度またがってみる価値のあるバイクだ。もちろん、その時代を知らなくても面白い1台ということに変わりは無い。伝統的な美しさと現代のクラフトマンシップが生み出したスクランブラーには、ただのバイクにはない奥深さと、噛み締めるほど湧き出すような味わいがある。
トライアンフ スクランブラー の詳細写真
270°クランクを採用した
バーチカルツインエンジン
見た目はレトロキャブレター
中身は最新インジェクション
スクランブラーの定番
アップタイプマフラー
ダートを駆けるための
ブロックパターンタイヤ
SPECIFICATIONS – TRIUMPH SCRAMBLER
価格(消費税込み) = 129万1,500円
スティーブ・マックイーンをはじめとする名ライダーが愛したTRシリーズをリデザインしたモデル。クラシカルなルックスの中には、惜しみなく現代のテクノロジーが投入されている。
- ■エンジン = 空冷DOHC 並列2気筒 270°クランク 865cc
- ■最高出力 = 60PS/6,800rpm
- ■最大トルク = 69Nm/4,750rpm
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