1-3 『59クラブ』
- 掲載日/2014年12月05日
- 文・イラスト/立花 啓毅(商品開発コンサルタント)
写真提供/BevelGear co.,ltd
『59クラブ』の本部(スイフトセンター)の前に集まったクラブ員達。ロンドン、プライストウにある現在の『59クラブ』の本部。
ロッカーズは、『第1章 ROCKERS! 心を揺さぶるロッカーズ魂』で記したように、スピードに取りつかれた若者達で、闇夜に公道でレースを繰り広げる社会からのはみ出し者だった。
彼らは保守的な大人社会に否定的で、それでいて勉強や仕事をする意欲もなかった。そういった若者が組織的なクラブを作るなど全く考えられないが、彼らを中心とした『59CLUB』(フィフティナイン・クラブ)が創設されたのだ。
このクラブは、その名からも判るように1959年に設立され、英国で最古の歴史を持つ有名なロッカーズの集まりである。興味深いのは、今なお存続していることである。
創始者はなんと、アグリカンチャーチ(英国聖公教会)のビル・シャーゴールド神父である。神父はバイク好きでボンネビルを愛用するライダーでもあった。だからこそ彼は、暴走するロッカーズの心のうちが判っていたのだろう。
彼はロッカーズが集う『エース・カフェ』や『ジョンソン・カフェ』、『ソルトボックス・カフェ』に出向き、彼らと打ち解けて話しながら結束を強めていった。そして『59CLUB』を設立し、社会から脱落した彼らをクラブに迎い入れたのだ。全盛期には毎週400人もの人が入会し、全国組織にまで展開したクラブは1万人を超える大規模なものとなった。
クラブの目的は、ドラッグや暴力を排除し、純粋にバイクを楽しむこととした。そして街道レースからツーリングに変わり、走る前には、全員で神に祈りを捧げてからスタートした。そしてクラブのメンバーが結婚するときは、神父が式を司ったのは言うまでもない。
そういった活動が1959年から行われ、現在は3代目のスコット・アンダーソン神父がリーダーを務めている。なかなかのイケメンで、いかにもロッカーズのリーダーであるという精悍な面構えの方だ。愛車はカワサキのZX-7だ。
エース・カフェは1969年に最後の紅茶を入れて閉じられたが、それから25年経った1994年、今は無いカフェの跡地に6,000人を超えるメンバーが集結した。ロッカーズOBは勿論のこと、その時代を知らない若者もいる。いずれにしても彼らは、先輩ロッカーズの生き様に共感し、当時のバイクに惹かれる人たちだ。
このミーティングは今も年1、2回のペースで続けられている。初代ロッカーズの生き様と官能を揺さぶるマシンの魅力は、今も絶えることなく脈々と引き継がれているのだ。
3代に渡る神父の功績は大きく、地道な努力で命を落とす若者は大幅に減少した。が、反面、それによってギラギラしたロッカーズの魂は薄れていったように思う。ちなみに、日本にも『59CLUB』の支部があり、約70人の会員が活動していたが、今は閉ざされている。
話は変わるが、最近、私自身、レース成績が芳しくなく、昔のタイムに戻そうと月に2回のペースでサーキットに通っている。面白いことに、そこに集まる若者は、なぜか50年代のロッカーズと同じように映るのだ。勿論、公道でレースをするわけではないが、彼らはやはり“バイク命”の若者達である。
彼らの話は「如何に速く走らせるか!」その1点である。そのためにはどの部品がいいか、どこのタイヤがいいか、サスのセッティングをどうするか…に終始する。彼らの素晴らしいところは、実に真面目で眼が澄んでいることだ。
それは遊ぶ金は全てバイクにつぎ込み、チャラチャラする余裕など全く無いからだ。レースにはかなりの金が掛かる。バイクは中古の安いものを探したとしても、ヘルメットに革ツナギ、ブーツに手袋。工具に種々発生する部品代。さらに運搬用のトランポも必要だ。レースに出るのだからエントリー費は勿論のこと、練習やセットアップのためのサーキット走行費も半端ではない。
それだけではない。一歩間違えれば怪我だけでは済まされない場合もある。そうやって常に自分を限界に置いているから、真面目で澄んだ眼になるのだろう。反面、街で見掛ける男子は“スマホ命”で手から離さず、一方の手では日焼けしないように日傘をさしている。
現実を知らないマスコミは相変わらず“バイク=暴走族”で反社会的というレッテルを貼る。それはマスコミの勉強不足である。日本は世界でもっとも多くのバイクを生産し、それによって経済が潤っているにも拘らず、社会の偏見が真面目で澄んだ眼の彼らを潰しているのだ。
海外のレースを見て欲しい。表彰式にはその国の国王が出席され、トロフィーの授与をされているではないか。日本に言い換えればサーキットに天皇陛下が来られ、直々に授与されるということである。
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