歴代タイガーの頂点奪取をもくろむ仕上がりを誇る新型タイガー900GTプロを試乗インプレッション
- 掲載日/2020年04月17日
- 取材協力/トライアンフ モーターサイクルズ ジャパン
取材・文・写真/小松 男
デュアルパーパスモデルの中核を担うタイガー800が、フルモデルチェンジを受けタイガー900へと進化
ここ数年再び注目を浴びているアドベンチャーバイク。豊かなストローク量を誇るサスペンションや多大な積載能力、そして未舗装路であっても分け入っていけるスタビリティなどの冒険心を掻き立ててくれる装備は、シティーユースからロングツーリングまで快適なライディングをもたらしてくれる相棒となる。
2010年に当時のタイガー1050とは別にミドルレンジラインとして発表されたタイガー800は、スタンダードモデルと共にオフロード性能を引き上げられたタイガー800XCが設定され、その後マイナーチェンジやバリエーション展開などが施されながら進化を続けた。そして約10年の時を経た今年、満を持してフルモデルチェンジが行われたタイガー900が日本に上陸したのである。
新型タイガー900ではGTとラリーという2種が用意され、それぞれにスタンダードと装備を充実したプロが設定されている。ここではタイガー900GTプロに焦点を当てて紹介してゆく。
タイガー 900 GTプロ 特徴
ミドルレンジという表現を恥ずかしいと思わせる威風堂々とした体躯と豪華絢爛装備
ここ数十年のバイクやクルマのラインアップの広がり方を俯瞰して考えてみると、既存モデルの購買層をさらに満足させ拡充を図るために、さらなるパワーアップや快適装備などを施してゆき、その結果としてボディサイズが巨大化し、さらにその先には、アンダーポテンシャルのニューモデルを追加するというスタイルが多くみられてきた。
2000年代に入ってからはさらに顕著に、各メーカー戦略的にハイ/ミドル/ローレンジのモデルをあらかじめ想定しておいたうえでプライオリティをつけて、順を追ってマーケットに導入するというシフトとなった。クルマの場合は過給機などを装着したダウンサイジングエンジンがブームとなったが、バイク業界ではエンジンの組み立て精度や高効率燃焼化が図られ、以前の同排気量エンジンと比べ、より高いポテンシャルを引き出せるようになった。その一方で電子制御デバイスの装着も一般的なものとなり、ハイエンドモデルでは有り余るパワーを、電子デバイスの力を借りてコントロールすることで、さらなるライディングの魅力へと導いてくれることとなった。
なぜこのような話をするかと言えば、ここで紹介するトライアンフ・タイガーの歴史を振り返ると、現在のモデルへ続くビッグデュアルパーパスモデルとして1993年に登場した初代モデルはタイガー900、99年に登場した2代目はタイガー955、2007年の3代目ではついにリッターオーバーのタイガー1050とエンジンを拡大してゆく。そして2010年には今回紹介するミドルタイガーの初代にあたるタイガー800が発表され、さらにその後ビッグタイガーは1200ccを超える排気量となってきたのだ。
異なる排気量を持つモデルの場合、他ブランドのライバルモデルとはもちろん、兄弟モデルと比較されることも多く、パワー主義的な人々からはより大きなモデルが支持されがちだが、新型タイガー900の最高出力95.2馬力、排気量888ccの3気筒というスペックは、もはやミドルレンジとは言い難いものであり、車重やコスト面で見てもリッターオーバーモデルより秀でた部分も多い。特に先代モデルであるタイガー800は、トータルバランスに優れたモデルであり、ロングツーリングユースのみならず本格的オフロードを楽しむ世界中のライダーに愛されてきた。そのミドルタイガーがフルモデルチェンジされ、今回は新たに登場したGT(グランツーリズモ)のイニシャルが与えられたタイガー900GTプロの本質に迫っていこう。
タイガー 900 GTプロ 試乗インプレッション
ライバルを凌駕する高い質感と、日本の道にマッチングの良いポテンシャル
タイガー900GTプロは、基本デザインをタイガー800系から踏襲しながらも、ヘッドライト周りやサイドパネルなどに精悍なラインが採用され、よりエッジが立たったシャープな印象を持たされている。先だって同時に発表されたタイガー900ラリープロのテストを行っていたのだが、ラリープロの最大870mmというシートの高さからくる威圧的な大きさとは異なり、GTプロのシート高は810-830mmとされており、すんなりと受け入れられる優しさが目に見てもわかるし、実際に跨り足を下におろした際に高い安心感を得られる。これはロングツーリングなどで、長時間地面に足をつかないようなシチュエーションの場合、どちらが良いか迷うところだが、市街地などでも日常的に使うようなユーザーや、スキルに自信がないようなライダーはシートが低い方が接しやすいことだろう。
イグニッションをオンにすると、クラス最大とされる7インチフルカラーディスプレイが目覚めると同時に各部のキャリブレーションが行われる。トライアンフのバイクは電子的マネジメントが豊富なので、この始動時の儀式はしっかりと行ってからセルボタンを押し、エンジンに火を入れる。888ccまで排気量を引き上げられた並列3気筒エンジンは軽いサウンドを轟かせアイドリングを始める。3気筒エンジンは今でこそ他ブランドでも採用されるようになったが、バーチカルツインと並びトライアンフのお家芸的なエンジンレイアウトとされ、長年の技術の蓄積によって作り出される最新の3気筒エンジンは全回転域においてパワフルかつ扱いやすく、トライアンフならではのアジが持たされている。これまでのタイガー800系エンジンは120度ごとにクランクピンが位相配置とされていたが、タイガー900系に搭載される新型エンジンでは1-2-3番クランクピンがそれぞれ90度ずつ置かれ「Tプレーン」と名付けられている。
軽く暖機が済んだところで、クラッチを繋ぎ走り出す。登録したばかりの状態でテストを行ったタイガー900ラリープロと比べ、今回のタイガー900GTプロは若干走行距離を重ねているからか、非常に滑らかなエンジンフィールを得られる。シフトアシストによるギアの入りもスムーズで、ラリープロのフロント21インチタイヤに対しGTプロは19インチなので切り返しも軽く、ストリートでの走りは快適そのものといったところだ。これならばどんなステージでも快適なライディングを楽しむことができるだろう。
市街地、高速道路、ワインディング、オフロードと、想定範囲のステージで一通りテストを行ってきた。カチッとしたシャシー、良く動く足まわり、そして心地よく力強いエンジン。高いトータルバランスにはプレミアムバイクの血筋をしっかりと感じられるものであるし、各部の質感も高いため、ちょっと走らせただけでも優越感に浸ることができる。特に「Tプレーン」が採用された新型エンジンは、パルス感こそ薄れたものの、全域でスムーズな回転を実現しており、シルキーなフィーリングになっている。
5パターン設定されたライディングモードによって出力特性やサスペンションが変更されるので、ちょっと攻めたい時や、まったりクルージングを楽しみたい際などは左手のスイッチ一つで、それに合った状態にコントロールできるうえ、プリセット以外にも自分好みの詳細な設定も行える。これが結構バイクそのもののキャラクターを左右するほどに幅広く調整ができるので、自分仕様のモードを作っておくと良いだろう。
GTプロはスタンダードGTにはないグリップ&シートヒーター、フォグランプ、電子制御式サスペンション、クルーズコントロールなどなど、特別な装備が多数用意されている。当初スタンダードでも良いではないかと考えていた私自身、いざこれらのギミックを使い始めると、その恩恵を強く感じてしまい、24万円という価格差はあるにしてもゆくゆくのバイクライフを考えると、タイガー900GTプロを選べば後悔はないだろうと思えた。ちなみにタイヤサイズやサスペンショントラベル量などのスペックの違いもあり、オフロードに果敢にアタックを仕掛けるようなライダーであればタイガー900ラリーをお勧めするが、オンロードメインに使用するのであれば、タイガー900GTの方が扱いやすく快適だ。
そして赤信号で止まっているときも、カフェのパーキングに置いているときにも、タイガー900GTプロをじっくりと眺めてゆく人が多くいたことが印象的だった。それに定かではないが道行く人でタイガー900GTプロに注目していた人などはきっとバイクに乗ることもなさそうな雰囲気だった。これはパッと見ただけでも人々が興味を惹かれるモデルであるということの表れであり、スタイリングからしてライバルモデルとも一線を画す魅力を備えているということでもある。
このように外観的にも世間に対して多大なアピールを示すスタイリッシュなものとしながら、中身的には正常進化を遂げつつ、ディテールの質感や豪華装備などでさらなる極みへと昇華。ビッグタイガーを踏まえ、歴代タイガーシリーズを見渡しても、新型タイガー900GTプロは最強と言っても過言ではない仕上がりとなっているのだ。
タイガー 900 GTプロ 詳細写真
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