トライアンフの変革と再建を支えた名車が復活? 新型「TRIDENT(トライデント)」の情報をキャッチ!
- 掲載日/2020年08月25日
- 取材協力・写真/トライアンフ モーターサイクルズ ジャパン 文/伊丹 孝裕
まだプロトタイプなのに大々的に発表開発スタッフの「見て見て感」が溢れ出す自信作
先頃、トライアンフはロンドンにあるモダンアート博物館「デザインミュージアム」にて開発中のプロトタイプを発表した。それが「トライデント・デザイン・プロトタイプ」だ。試作段階でこれほど大規模な舞台が用意されるのは極めて珍しく、エンジニアの自信と意気込みが感じられる。
そのことは、「トライデント」というネーミングが採用されたことからも伝わる。なぜならそれは、トライアンフの変革と再建に深く関わっているからだ。ここからはまず、その歴史を簡単にひも解いておこう。
トライアンフから送り出された数々のモデルを語る時、バーチカルツイン(並列2気筒)は欠かせないエンジンだ。これは今現在もそうだが、もうひとつの代名詞がトリプル(並列3気筒)である。
トライアンフが3気筒を初めて採用したのは1968年のことで、120年近くに及ぶ同社の長い歴史の中では比較的新しい形式ながら、それでもすでに半世紀以上が経過。その時のモデル名が他でもない、「トライデントT150」だった。迫りつつあった大排気量時代を見据えて開発されたそれは、空冷のOHV2バルブ並列3気筒をスチールバックボーンフレームに搭載。740ccの排気量から58ps/7250rpmの最高出力が引き出されていた。この初代トライデントと兄弟車であるBSA・ロケットIIIは、デイトナ200マイルやマン島TTといったメジャーレースで数々の優勝を記録し、ハイパフォーマンスエンジンの象徴として広く知られたのである。
トライデントのレーサー(1973年)
しかしながら、オイルショックやイギリス国内の不況、さらには日本車の台頭といった様々な事象が重なり、やがてトライアンフも経営難に直面することになった。結果的に1983年に工場の閉鎖を余儀なくされたわけだが、1990年に活動を再開。その時、再建を託されたが「トライデント750/900」を主軸とする3気筒モデルだった。
このことから、その名称がトライアンフにとっていかに大切なものかが分かる。近年はラインナップから外れていたものの、満を持して復活することになった。これまでのトライデントがそうだったように、新時代を切り開く入魂のモデルと見て間違いなさそうだ。
さて、そんな新型トライデントに関する詳細は、実はまだ限られている。3気筒ということ以外、排気量も未発表なのだが、チーフプロダクトオフィサーのスティーブ・サージェント氏によると「競合車種はホンダCB650R、カワサキZ650、ヤマハMT-07を想定している」とのこと。これが意味するところは、650cc前後の排気量帯ということだ。ただし、660ccの現行ストリートトリプルSとも、かつての675ccとも異なる新開発の3気筒らしく、既存のエンジンにはない新しい特性と技術に期待したい。
エンジンを除くコンポーネントはモックアップに見えるが、日本への導入は2021年春が予定されている。つまり、実際にはほぼ完成していると見るのが妥当であり、カラーリング以外は、限りなくこのまま登場するのではないだろうか。
全体のスタイリングはオーセンティックなスポーツネイキッドとしてまとめられている。スチールパイプフレーム、アルミ鋳造スイングアーム、丸目一灯式ヘッドライト、ニーグリップしやすそうな燃料タンク……といった装備はいずれも奇をてらったところがなく、誰の目にも好感度が高い。
デザインを手掛けたのは、イタリア人デザイナーのロドルフォ・フラスコーリ氏だ。トライアンフとの関係は長く、スピードトリプルやタイガー1050、タイガー900といった一連のシリーズで実績を残している。
ちなみに新型トライデントは、スラクストンやスピードツインが属するモダンクラシックファミリーではなく、スピードトリプルとストリートトリプルを擁するロードスターファミリーの末弟として組み込まれることになっている。かなり戦略的な価格が掲げられることが予想され、ユーザー層の拡大は確約されたも同然だ。
スペックを含む詳細は近日中に発表されるとのことなので、楽しみに待ちたい。