高次元でバランスの取れたコンパクトトリプル、トライアンフのストリートトリプルRローを試乗インプレ
- 掲載日/2021年02月15日
- 取材協力/トライアンフ モーターサイクルズ ジャパン
取材・文・写真/小松 男
上級モデルに準ずるポテンシャルと、ローダウン仕様によるフレンドリーさ
ストリートトリプルの出自は、以前トライアンフにラインナップされていたデイトナ675のネイキッドバージョンとして開発されたことから始まる。90年代から存在したストリートファイターモデルであり、世界的に人気を誇っていたスピードトリプルの弟的存在として華々しいデビューを飾った。なんといってもその魅力は軽量かつコンパクトな車体とアップライトなライディングポジションから得られる抜群のコントロール性能の高さであり、スキルを問わずとも素晴らしいスポーツライディングを楽しめるものに纏められていた。
それから年月が経ち、現在国内で販売されているストリートトリプルは、最上位モデルにあたるRS、装備などが簡素化され、なおかつ排気量の少ないスタンダードモデルのS、そしてRSと同様の排気量でいながらピークパワーが若干抑えられ、装備的にはSとRSの中間にあたるグレードとして用意されたRの3モデルが用意されている。注目すべきは、国内に導入されているストリートトリプルRはローダウン仕様だということだ。素晴らしい運動性能を持ちながらも、シート高が下げられて親しみやすいパッケージングとされたストリートトリプルRローを紹介してゆく。
ストリートトリプルRロー 特徴
素性の良さは折り紙付き、本格的スポーツ志向の一台
世界最高峰ロードレースのセカンドクラスであるMoto2、その参戦車両に2019年度から採用されているのが、トライアンフ・ストリートトリプルに搭載されているものをベースとした並列3気筒エンジンだ。つまりここで紹介するストリートトリプルRローもMoto2直系のエンジンを備えていることになる。そもそも私は旧モデル時代からストリートトリプルを好んでおり、これを書く半年ほど前にもスタンダードモデルにあたるストリートトリプルSのテストを行い、その運動能力の高さに太鼓判を捺している。今でこそ数社から3気筒エンジンを搭載したモーターサイクルが販売されているが、90年代から2000年代初頭にかけては、トライアンフの独壇場とも言えるジャンルであった。
4気筒エンジンの高回転域の伸びの良さと、トルクフルなツインエンジンとの中間とも言える3気筒エンジンのキャラクターは、全回転域で扱いやすく、それでいてパワフルなパフォーマンスを備えることができるという独特のエンジンレイアウトだ。トライアンフはさらに長い歴史を持つバーチカルツインエンジンと、3気筒エンジンを大きな柱として成長してきており、現在ではストリートトリプルをはじめとしたロードスターセグメント、タイガーのアドベンチャーセグメント、さらには量産モータサイクル最大排気量を誇るロケット3にそれぞれ3気筒エンジンを搭載している。さて、それでは実際にストリートトリプルRローに乗り、その感触を探っていきたいと思う。
ストリートトリプルRロー 試乗インプレッション
足つき性の良さがすべてに勝る正義自信があれば上級グレードを選ぶのも手
トライアンフがロードスターセグメントと呼んでいる同社のストリートネイキッドモデルのアイデンティティと言っても過言ではない2眼ヘッドライトをフロントに配置したストリートトリプルRロー。遡れば90年代のスピードトリプルから、この2眼ヘッドライトスタイルを取り入れてきたこともあり、少々バイクの事をかじった人ならば、このヘッドライトを見ただけでトライアンフだと分かるようになった。ただ面白いことに、ここにきてロードスターセグメントに新しく加わったトライデント660はオーソドックスな1灯ヘッドライトを採用している。そのことに関しては色々な要因が推測できるが、今回はストリートトリプルRローのテストなので割愛させていただく。
そもそもストリートトリプル系はかなりコンパクトなパッケージとされているが、このストリートトリプルRローは実際に跨ってみると、驚くほどシートの高さが抑えられていることが分かる。トップエンドモデルのRSが825mm、スタンダードモデルのSが810mmのシート高に対し、このストリートトリプルRローは、780mmと大幅に低く設定されている(国内導入モデルのRはローシート仕様のみ)。身長約178cmの私の場合、跨ったままの状態で容易に車両の取り回しを行うことができてしまうし、小柄なライダーやビギナーならばとても高い安心感を得られることだと思う。
エンジンを始動し走り出す。まだ登録したばかりの慣らし運転中車両ということで、3000~4000回転程回すだけで、シフトチェンジを促すリブインジケーターが点滅していたが、それも注意しながら入念に全体を暖めてゆく。慣らし中とはいえ、トリプルエンジン特有のエキゾーストサウンドは心地よく、ほどよくライダーを刺激してくる。クラッチ操作をせずともシフトアップ/ダウンが行えるアシスト機能が備わっているため、市街地などをクルーズするようなライディングでもとてもイージーだ。カウルを持たないネイキッドスタイルかつ上体が起きたライディングポジションということもあり、高速道路ではそれなりの走行風を受けるものの、メーターバイザーがコンパクトながらも空力についてよく考えられているため、上体を少し伏せた状態にするだけで、あまり風が気にならなくなることも分かった。ローシートが装着されているため膝の曲がりがやや強く、長時間乗車するようなシーンでは、ノーマルシートを用意しても良いかもしれないと思った。
ストリートトリプルRローでのワインディング走行はとてもエキサイティングだ。扱いやすいエンジン特性、ライダーの要求にしっかりと応えるシャシー、そして路面をしっかりと捉える足まわり。そのすべてが凝縮されているからだ。RSと比べてピークパワーは5馬力抑えられた118馬力だが、それでも一般的なスキルのライダーでは強烈なものと感じるだろう。低中回転域ではあくまでも使いやすく、高回転ではさらに官能的な回転上昇を得られると言ったキャラクター付けがされている。なお、ストリートトリプルRとRSに搭載されるエンジンの排気量は765ccで、ストリートトリプルSは650ccとなっている。この差はストローク量によるものが大きく影響しており、ストリートトリプルSはピークパワーこそ95.2馬力に抑えられているものの、ショートストロークエンジン特有のピックアップの鋭さを好む人もいるはずだ。なのでストリートトリプルRローの購入を考えている方は、試しにストリートトリプルSも乗り比べて、あらかじめ特性の違いを理解しておくことをお薦めする。
1週間ほど日常的に乗り回してみたが、やはりローダウン仕様というのは気兼ねなく乗れるという点で大きなメリットがある。ちょっとそこまで、という時にもストリートトリプルRローで動くようになった。フラッグシップモデルであるストリートトリプルRSの装備は確かに魅力的だが、果たしてそこまでのポテンシャルは必要なのかとも思うことがあるし、むしろストリートトリプルSでも十分な性能を備えている。その中間的ポジションでありながら、フレンドリーなシート高、そこにこそストリートトリプルRローの魅力がある。通勤通学、デート、ツーリング、その先にはサーキット走行などもあるかもしれない。ストリートトリプルRローは様々なステージを分け隔てなく楽しむことができる万能スポーツバイクなのだ。
ストリートトリプルRロー 詳細写真
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