トライアンフの新型スピードツインを試乗インプレ!ユーロ5に適合させつつブラッシュアップ
- 掲載日/2021年08月20日
- 取材協力/トライアンフ モーターサイクルズ ジャパン
取材・文・写真/小松 男
いつの時代も玄人から注目されてきた一台
現在のトライアンフのモデルラインナップを大きく分類すると、トリプルエンジンを採用したロードスターとアドベンチャー系、バーチカルツインエンジンを搭載したモダンクラシック、いわゆるボンネビル系に分けることができる。ロケット3という特殊なモデルもあるが、ここでは横において置かせてもらう。
トリプルエンジンを使用するシリーズはどちらかと言うとスポーティ度が高く、その奥にトライアンフのトリプルエンジンならではの独特なフィーリングを備えているという仕立て方であり、一方の伝統的な2気筒エンジンのボンネビル系は、まずしっかりとクラシカルな風味を与えて、そこに現代のテクノロジーを取り入れたスポーティさを合わせるという手法を取っている。どちらもトライアンフならではの魅力があり、甲乙つけるのは難しいが、その芯となっているものは他ブランドには真似できないものである。ここ数年、トライアンフからは矢継ぎ早にニューモデルが登場してきたが、2021年度でのボンネビル系はユーロ5に適合させることに合わせて、ブラッシュアップが図られた。前回のインプレションではストリートスクランブラーを取り上げ、見えない部分の進化に驚かされたものだ。今回は登場したばかりのスピードツインに照準をあてる。
スピードツイン 特徴
オーソドックスでありながらもモダンなエッセンスが溢れる
19世紀に産声を上げたトライアンフ社は、様々な紆余曲折を経て21世紀の現在へと続いてきたわけだが、その歴史を振り返ると、幾たびかの転換期があることが分かる。そのひとつとしてアリエル社からエドワード・ターナーがチーフデザイナー兼ゼネラルマネージャーとして移籍したことを挙げることができる。エンジニアリング会社の経営者を父に持つターナーは、サラブレッドと言える血筋であり、モーターサイクルディーラーの経営やアリエルでのチーフデザイナーなどを経て、トライアンフの一員となった。
そんなターナーはタイガーシリーズを開発、車両の高い完成度による販売面だけでなく、業務の管理システムなども合理化し多大な成功を収める。その次に着手していたのが、今回取り上げる新型スピードツインの始祖にあたる1938年に登場した初代スピードツインだった。シングルエンジンだったタイガーに対し、新たに開発した高性能ツインエンジンを搭載。シングルエンジン全盛の時代にあって、パワフルなツインスポーツは大衆の心をつかんだ。その結果、スピードツインはトライアンフの看板モデルとなっただけでなく、以降他ブランドのスポーツバイク開発の指標となったのだった。
そんな名機、スピードツインのイニシャルが復活したのは2019年のことだ。現代のテクノロジーがふんだんに用いられており総じてモダンな印象を受けるものの、柔らかな丸みを帯びたボリューミーなタンクやバーハンドルなどで固められており、”当時のスポーツ”を連想させるものとなっていた。従来モデルもテストライドを行ったことがあるが、その印象は、見た目以上にスパルタンなものだったことを覚えている。それではブラッシュアップされた新スピードツインはどのように進化しているのか、実際に試乗を通して探っていきたいと思う。
スピードツイン 試乗インプレッション
これぞカフェレーサーの指標その気になればレース参戦も
新型となったスピードツインだが、2019年の復活登場からまだ日が浅いことや、すでに完成しているデザインということなどから、今回はスタイリングに大きな変更は無く、多くの人は区別がつかないかもしれない。一目で新旧を見比べることができるポイントとしては、フロントフォークが正立タイプからマルゾッキ製φ43mmの倒立フォークに変更されたことだろう。
エンジンを始動し走り出す。排気量1200ccのバーチカルツインエンジンはパワフルで、うっかりスロットルをワイドに開くものなら、いとも簡単にフロントを浮き上がらせようとする。新型スピードツインに搭載されるエンジンは、最高出力が3馬力引き上げられた100馬力で、最大トルクは発生回転数が4250回転に引き下げられている。特に3000~4500回転域でのレスポンスとトルク感は太く、クルージングしているつもりが、ついついハイペースなものとなってしまう。それが急かせるようなものではなく、スピード感を心地よく楽しめるようなセッティングなのだからたまらない。
ただ、ユーロ5に適合させるセッティングとしたためか、まだ慣らし運転が終わっていないからか、外気温が体温を超えるほどの酷暑日だったためなのかはわからないが、ゼロ発進時のトルクが薄く、2度ほどエンストをしてしまうことがあった(後日、再び走らせたところ、発進時に回転を上げエンストをしにくくさせるアシスト機能が備わっていることが分かった。やはりあまりにも気温の高いシビアコンディションがもたらすエラーだったと推測できる)。
さらに新型スピードツインを考察してゆくと、足まわりの強化によってライディングポテンシャルが大きく引き上げられていることが伝わってくる。実はマルゾッキの倒立フォークは取り立てて特別な性能を持たされてたものではない。しかし、キャスター角やトレール量、ホイールベースなど、全体的な見直しがなされたことで、格別なハンドリングをもたらしている。付け加えるとタイヤにはメッツラーのレーステックK3が採用されているのも、コーナーリング時に気持ちよく安心してパスすることがきる要因にもなっている。
新型スピードツインは、走れば走るだけ気持ちが良く、さらに楽しい。トライデント、ストリートスクランブラー、そしてスピードツインと、今年に入ってから日本に上陸したトライアンフのニューモデルはアタリばかりである。エンジンフィーリングの素晴らしさを、上手にライダーに伝えてくれるうえ、気分の良いライディングを楽しめる。少し前のモデルでは、多少重箱の隅をつつくようなことも言えたものだが、もはや細部まで非の打ち所がない。見えない部分がとても進化しているということが、実際に乗ると分かるのだ。
新型スピードツインはストリートでの日々の生活の相棒として申し分なく、多少足まわりに手を加えればツインエンジンレースなどの参戦も楽しめてしまう。長く付き合っても飽きることが無いだろう。そんなお得なモデルに纏められているのである。ボンネビル系を物色した際、スラクストンではパンチが強すぎる、かといって900ccエンジンを採用するストリートツインではやや物足りないと感じている人も少なくないはずだ。そのような方にお勧めしたい一台となっている。
スピードツイン 詳細写真
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