2023年モデルのトライアンフ スクランブラー1200XCを試乗インプレッション!パンチ力抜群の快活ファンバイク
- 掲載日/2022年11月29日
- 取材協力/トライアンフ モーターサイクルズ ジャパン 取材・文・写真/小松 男
長い年月繋げられてきたトライアンフ スクランブラーの系譜
トライアンフモーターサイクルズの前身にあたるジークフリード・ベットマン&カンパニーが設立されたのは1885年のこと。当初は輸入貿易を専門としていたが、自転車とエンジンを組み合わせたモーターサイクルに注目し、1902年にはトライアンフの第一号車”ナンバー1”を完成させる。
トライアンフ=勝利という意味を持つ単語でもあり、実際にその後はマン島TTレースをはじめとした様々なレースで多大な功績を挙げることとなる。そのトライアンフレース史の一つに刻まれているのがISDE(インターナショナル・シックス・デイズ・エンデューロ)での活躍だ。ロードレースモデルをオフロード仕様へとカスタムを施したモデルで勝利を挙げ、それをベースとして1951年にTR5トロフィーをリリース。これがトライアンフ スクランブラーの礎であり世界的なヒットモデルとなる。ちなみに、かのスティーブ・マックイーンが映画『大脱走』の劇中で使用したのは、その後継にあたるTR6だ。今回はそこから続いてきた血脈を今に繋げる最新モデル、スクランブラー1200XCをピックアップする。
トライアンフ スクランブラー1200XC 特徴
秀でたポテンシャルを持つマッスルスクランブラー
トライアンフが実際にスクランブラーという車名を使い始めたのは2006年からのことで、先述した往年の名機であるTRをオマージュしたモデルとされた。今でこそネオクラシック系バイクがもてはやされているが、スクランブラーを含むボンネビル系を早くからリリースしてきたトライアンフは、その先駆け的な存在であったと言えよう。
その最新モデルにあたるスクランブラー1200にはXCとXEという2バージョンが用意されている。イニシャルの語源には諸説あるが、XEの方が上位仕様のサスペンションやブッシュガードなどが取り入れられ、よりオフロード志向が強められていることから、”C”はシティ、”E”はエクスプローラーと捉えて問題は無い。今回は前者、スクランブラー1200XCに触れて行くとする。
そもそもオンロードもオフロードも分け隔てなく走り回るモデルを指したことからきているスクランブラーという言葉。それを看板に掲げたモデルには様々なものがあるが、個人的にはトライアンフのスクランブラーが元祖だと思っている。私が子どもの頃はまだ近所に未舗装路が結構残っていたし、それよりもかなり前から存在したジャンルだと考えると、オンロード=整備されている道路、オフロード=道路として整備されていない地という解釈だったのかもしれない。
それというのも元はアメリカのバイク遊びから端を発したムーブメントであり、広大な大地を開拓して生活環境を整えてきた北米大陸を思い浮かべると、生活道路から、でこぼこ道や果てしなく続く高原、または森の中などにバイクで分け入っていく当時の様子をイメージすることができる。
そこから現在の身の回りの生活環境へと置き換えて考えてみるとどうだろうか。人の手が入っておらず、自由にバイクで走り回れる場所など、どこにも無いようにすら思える。あくまで日本では、ということが前提の話ではあるが、トライアンフが売られている多くの国がそういった状況ではないだろうか。そのような中で現代のスクランブラーとはどのようなものに仕立て上げるかというのが、メーカーとしても重要な課題となっているには違いなく、そのポイントをじっくりと考察してゆきたいと思う。
トライアンフ スクランブラー1200XC 試乗インプレッション
スキルとフィジカル面も要求するパワフルなじゃじゃ馬
スクランブラー1200XCの大きなフューチャーポイントとしては、まず何といっても排気量1200ccを誇るビッグバーチカルツインエンジンだろう。270度不等間隔クランクが用いられており、これがオフロードでの優れたトラクションを生み出すとともに、ライダーへ心地の良い鼓動感を伝えてくれる。ひと昔、いやふた昔前は、ツインエンジンの振動は敬遠され、360度等間隔クランクが人気だったこともあったが、現在は組み立て精度の向上やバランサー技術の進歩などで、多少の振動がむしろ好まれるようになったこともあり、現在トライアンフがボンネビル系に搭載するバーチカルツインは270度クランクとなっている。
ワイヤレスキーをポケットに忍ばせ、イグニッションボタンをオンにしてからセルスタートを押すとエンジンは元気よく目を覚ました。シートは840mmと高めのシートだが、数値程足つき性は悪くない。発進アシスト機能が搭載されており、スロットルを開けずとも、クラッチミートするだけで回転数が上がり車体を前へと押し出してくれる。
低回転から強大なトルクがあり、スロットルを軽く開けるだけで上体がのけぞるほどの加速を得ることができる。ハンドルの切れ角が大きいため、狭い道やUターンなども楽に行えることや、オフロード走行を意識したロングストロークサスペンションやフロントの21インチタイヤはロードスポーツモデルでは障害物的に見える縁石などを乗り越えることも楽しいとすら思わさせてくれ、これらはアーバンステージにおいても大きなメリットに感じられる。
フロント21、リア17インチというタイヤセットということもあり、ワインディングロードでは、ロードスポーツモデルになれているライダーは癖を感じるかもしれないが、すぐに慣れ、ダイナミックなコーナーリングを楽しむことができるだろう。
ライディングポジションは広い。これはライダーに対し動きの自由度を高めていることにあるのだが、上背は立ちが強く加速力が優れていることもあり、意識して前傾姿勢を取るようにしなければフロントハッピーになりがちだ。このことは、市街地、高速道路、ワインディングというオンロードシーンのほぼすべてにおいて感じられた。
ハンドル位置が高いこともその要因のひとつと言え、シッティングスタイルで長時間走らせていると腕が上がる感覚となるライダーもいることだろう。私の場合そこそこ良いペースで走らせていたところ、広背筋をもっと鍛えなければ、と思わざるを得なかった。肉体が追い付いていないのである。
ハイパフォーマンスを開放するためには相応のフィジカルも必要だということだ。もちろんムキムキになるまでではなく、スマートな細マッチョが理想的。そしてスクランブラー1200XCは、そのように仕上げられた体に似合う美しいスタリングをしているのだ。
未舗装林道でもテストライドを行った。スタンディングでの扱いやすさは特筆するものがあるし、ガレ場というレベルではないものの、砕石や砂利の多い路面が続くような場面でも難なくパスすることができた。むしろ十二分過ぎるほどのポテンシャルを発揮できる道を探してどこまでも行きたくなってしまう。
現代の道路状況におけるスクランブラーモデルというものの立ち位置を考えた際、トライアンフのスクランブラー1200XCは出来過ぎとも言えるほどの性能を備え持っており、それは最高峰スーパースポーツモデルなどと同様に、そこいらのステージではポテンシャルを発散することができない。これにはもどかしさも感じられなくはないが、それはすべて使わずとも秘めたる余裕であったり懐の深さなどと思えれば良いのである。つまりスクランブラー1200XCは、オンロード、オフロード問わず素晴らしい走りをもたらす一台に纏められているのだ。
トライアンフ スクランブラー1200XC 詳細写真
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