VIRGIN TRIUMPH | 6-7 スモールロールスロイスと呼ばれた『ローバー2000TC』 立花 啓毅さんのコラム

6-7 スモールロールスロイスと呼ばれた『ローバー2000TC』

  • 掲載日/2017年04月07日
  • 写真・文/立花 啓毅(商品開発コンサルタント)

英国車らしいという点で見ると、ジャガー・マークⅡと拮抗するのが『ローバー2000TC』と言える。しかし実際に購入してみると、拮抗というよりは対照的な面があることに気づく。

立花啓毅さんのコラムの画像

ジャガーはアメリカでの成功を目標に、米国人が好む英国車らしさを表現した。特にXK120、140、150シリーズは、古めかしいオーソドックスなシャーシに高性能なエンジンを搭載し、それを安価に提供したのだ。

一方、ローバー社は技術的な挑戦を常に行ない、クルマのあるべき姿を模索していた。例えば2000TCでは、米国の安全基準が発表される遥か前に安全対策を取り入れ、エンジンも排気ガスの綺麗なものを開発。こういったところに技術屋の良心を感じることができる。

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サスペンションも独自な構造のものを開発し、ボディは骨格をしっかり固め、フェンダーなどの蓋モノは、シトロエンのDSのようにボルトアップにするなど、先進的な設計を行った。ちなみにボンネットとトランクリッドはアルミ製だ。

そういった点で、ジャガーとは企業姿勢が大きく異なっていることがわかる。さらにローバー社は、戦前にジェットエンジンを独自開発し、戦後、その技術力を生かした世界最初のガスタービンエンジンを作ったのだ。

これをクルマに搭載して1961年のルマンに出場。ローバーBRMチームは、正式出場として認められなかったが、総合7位という快挙を成し遂げた。この活動に世界中が注目し、アメリカのビッグ3は無論、ルノー、フィアットまでもガスタービンエンジンの開発を行なったほどだった。

こうやって見ると、技術開発に力を注ぎ過ぎた感すらもあるが、成功した技術例としては、最強の走破性を誇る4駆システムを構築したことだ。ご存じ、ランドローバーのディフェンダーやレンジローバーに展開し、いまだに世界一の走破性を誇っている。

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技術力に特化した一方で、ローバーはもっとも英国車らしい側面を持っている。英国車にはオースティンからベントレーまで、華美でなく「枯れた腹八分の良さ」があるが、この大人の品格をより感じさせてくれるのがローバーである。

ジャガー・マークⅡのような華やいだところはなく、気品に満ち、控えめで、質素である。また上質な材料で丁寧に作り込まれている。これはサスペンションなどの機能部品も同様で、ここがジャガーとの最大の違いだ。

その良さは雑踏の中でパワーウインドーを閉めた瞬間に「いいなー」と、声を漏らすほどだ。おそらく物理的な音圧では日本車の方が静かだと思うが、しっとりした佇まいのなかで、厚いガラスが滑らかに動き、雑踏がスーッと消える。その瞬間に贅沢な気持ちに浸れる。ローバーがスモール・ロールスと呼ばれる所以はここにある。

クルマが気品に溢れていると、運転も紳士的になり、横の女性までもが淑女に見えたりもするから面白い。

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ところがこの良さは、当時まだ小学生だったウチの息子には理解不可能だったようで、クルマで出掛けようと言うと、喜ぶどころか泣き叫ぶ始末だった。どうも薄暗いインテリアと黒皮のシートが怖かったのだろう。

それより大きな問題は、あまりにハイギアード過ぎて、急坂は登れないことだった。うっかり急勾配の駐車場に停めたものなら出られなくなってしまう。

以前、家族で海水浴に出かけた時もそうだった。陽も落ちてきたので帰ろうとしたら、砂浜からの道が登れないのだ。下からスピードをつけてもATがストールし、途中で止まってしまう。仕方なくバックで細く入り組んだ坂道を何回もアタックして辛うじて登りきった。その頃にはすっかり陽が落ち、ここでも子供に泣かれてしまった。

ちなみにローバー2000を購入したきっかけは、近くに住む小林彰太郎さんの「いいクルマですよ」のひと言だった。

もちろんCGに書かれた長期リポートの影響もあるが。実際に長期間愛用して感じたのは、家族の一員のような親しみがわき、一生、ともに暮らしたいと思わせる魅力が備わっていることだ。

日本車は機能、性能では一流だが、こういった「枯れた腹八分の世界」や「華やいだ世界」さらには「運転が紳士的になる世界」を創り出すことができない。やはりモノは文化の上に生まれるものであって「ローマは一日にしてならず」である。

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写真は、ローバーTCにトレーラーを付けてレースに参戦していた時のもの。バイクはヤマハDT1ベースのタチバナスペシャル。フレームはダウンチューブを延長して重心を下げ、排気量250ccエンジンをカリカリチューンした2ストマシンだ。

『ROVER 2000TC』1963年(TC=ツインキャブ)
  • エンジン=直列4気筒SHC
  • 排気量=1,978cc
  • 内径×行程=85.7×85.7mm
  • 圧縮比=10.0
  • 最高出力=114hp/5,500rpm
  • 最大トルク=17.3kg-m/3,500rpm
  • 最高速度=180km/h
  • サイズ=全長4,530×全幅1,630×全高1,390mm
  • 軸距=2,630mm
  • トレッド=F:1,350/R:1,330mm
  • 車両重量=1,275kg
  • サスペンション=F:水平トップスプリングによるボトムリンク/R:ドディオン+コイル
  • 当時価格=256万円(英国でもトライアンフ2000の上のクラスとして高価格)

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