1-2 カフェレーサー『トライトン』
- 掲載日/2014年11月04日
- 文/立花 啓毅(商品開発コンサルタント)
写真提供/BevelGear co.,ltd
ロッカーズ、彼らのようなバイクを心より愛する若者を対象に、当時のチューニングショップは最強のトライアンフ・エンジンを、最も優れていたノートンのフェザーベッド・フレームに搭載した。これがトライトンの始まりで、1954年のことである。
因みに、“トライトン”とは“トライアンフ+ノートン”の意味だ。さらにフロントフォークは、イタリア製のチェリアーニを、ブレーキは大口径ドラムのフォンタナを、ハンドルやレバー類も同じくイタリアのトマゼリをといった具合に世界の最高級のパーツが組み込まれた。
その後、独自のフレームを作るスペシャルメーカーが現れ、ドレスダ、ダンストール、リックマン、シーリーと、各社は惚れ惚れするようなカフェレーサーを次々と世に送り出した。これらのマシンはいずれもトライアンフ、またはベロセット スラクストンや、マチレス G50のエンジンを搭載した。
当時はエンジン性能に対して車体が重くプアであったため、フレームを変えることによって別モノのバイクに仕上がった。例えば、スラクストンの緻密に組まれたエンジンは、低速からトップエンドまで高トルクを発揮し、しかも気品に満ちた回り方をする。
ところがフレームときたら、自転車の三角フレームにサスペンションを付けたようなものだから、コーナーではヘナヘナだったのだ。
そのため、軽量で高剛性なクロモリフレームに換えると、即レースに対応できるマシンへと仕上がった。もともと英国には職人的な技術屋が多く、フレームを作ったりエンジンパーツやミッションを製作することが得意だった。そのためカフェレーサーのインフラが整っていたといえる。
またこの時代、世界グランプリ(今でいうMotoGP)では、ノートン マンクス、マチレス G50、ベロセット、さらには市販スポーツのBSAゴールドスターなど、英国勢が世界を席巻していた。こういった状況も、恐らくカフェレーサーの展開に大きく影響していたものと思う。
カフェレーサーに最も多く使われたトライアンフのバーチカルツイン・エンジンは、1937年にエドワード・ターナーが設計したものだ。軽量コンパクトで、鋭いピックアップとパンチのあるパワーを誇る。すでに70年以上も経つが、いまだにこれを超えるエンジンにお目に掛かったことはない。パワーだけでなく見た目にも贅肉をそぎ落とした美しさがある。
当初500ccでスタートしたが、後に350ccと650ccが加わり、さらに750ccまで拡大された。フィーリング的にはアルミシリンダーの500が優れているが、やはりボンネビルに搭載されたツインキャブの650ccがパワーの面で優れている。
バーチカルツインのピックアップは官能を揺さぶり、鼓動はハラワタに染み渡った。そこには今のハイテクを駆使しても陵駕しえない、五感に訴えるものがある。
写真のトライトンはだいぶ昔に手に入れたものだが、徹底したチューンを施したため、恐らく国内最強のマシンだと思う。エンジンの中身をお見せできないのが残念だが、カムはメガサイクルのKZを、コンロッドやロッカーアームはバフでピカピカだ。
フレームはフェザーベットのナロー。ワイドは股が広がりちょっと乗りにくい。フロントブレーキはヤマハTZのドラムを組んだ。これはヤマハが世界GPに出るため、フォンタナを参考にして作ったものだ。効きは素晴らしく、フロントフォークがしなるほどである。自慢したいのは排気系で、なんとチタンより軽い。0.6tの鉄板を丸めてパイプを作り、それを曲げて作ったものだ。勿論、自作である。
以前、このトライトンはお立ち台の真ん中が定位置だったが、今やマシンは行きたがっているものの、「乗り手が足を引っ張っている」状態である。
蛇足だが、『タイムトンネル』(※1)のスーパークラシックのクラスは、出場車が全てトライアンフとトライトンだった。その時、主催者の吉村氏から「これではレースが面白くないので、トライトン以外のバイクでお立ち台に上がって欲しい」と頼まれた。
そこで60年代にトライアンフの対抗馬だったBSAのスーパーロケットをベースにレーサーを作った。SRMのスペシャルヘッドなどを組み込み、かなりのチューンを施したが、スーパーロケットで上記のトライトンを負かすのはなかなか難しい。それほどにトライトンは優れていると言うことである。
※1 『タイムトンネル』とは、吉村国彦氏が主宰したクラシックバイク・イベントで、1978年にはじまり30年近く続いた有名なレース。海外からバイクを持ち込んで参加する人もいたほどで、日本のバイク文化に大きく貢献した。
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