2-1 映画を彩ったトライアンフ
- 掲載日/2015年02月06日
- 文/立花 啓毅(商品開発コンサルタント)
少し前の映画だが、スティーブ・マックイーンの『大脱走』(1963)や、マーロン・ブランドの『乱暴者』(1953)をご存知の方は多いことと思う。これらのスクリーンに格好よく登場するのがトライアンフだ。
『大脱走』は米兵の集団脱走がメインに描かれている戦争映画だが、その中で、トライアンフに跨ったマックイーンが2,3メートルもある有刺鉄線の柵を、丘の勾配を使って見事に飛び越すという、なんとも惚れ惚れするシーンがあった。
一方『乱暴者』では、マーロン・ブランドが暴走族のリーダー、ジョニーを演じる。彼はトライアンフに跨り、レース場を荒らし回り、敵対する暴走族と乱闘となる。ブランドはハンドルブラケットにトロフィーを括りつけ、街中で暴走を繰り返す。トロフィーを括ったトライアンフが、じつに格好良かった。この映画は反社会的な内容が色濃かったため、保守的なイギリスでは1968年まで上映が禁止されていた。しかし本国では、体制に不満を持つ若者達から圧倒的な支持を集めたのだ。革ジャンにジーンズを履き、ロックンロールを聴き、バイクでぶっ飛ばす…。その不良を演ずるマーロン・ブランドが格好良く、彼の反抗する姿に若者たちは美学を感じ、セックス・シンボルに祭り上げるほどだった。
『乱暴者』に続き、体制への反抗をテーマにした映画が次々と製作された。『理由なき反抗』(1955)や『監獄ロック』(1957)である。暴力的だが傷つきやすい若者の役を演じたジェームス・ディーンも、時代を表現した1人だった。
この一連の流れは、まさにイギリスで巻き起こした“ロッカーズ”のアメリカ版とも言える。ロッカーズは『 1-1 心を揺さぶるロッカーズ魂 』で記したように、スピードに取りつかれた若者達であり、社会のはみ出し者だった。彼らは保守的な大人社会に否定的で、あり余ったエネルギーをスピードや暴力という形で表現するしかなかったのだ。
同時期、日本でも同様な現象が起きていた。ごく一部ではあったが、ブルージーンズに鋲を打った革ジャンをまとい、スピード命の男たちが闇夜に横浜バイパス(ワンマン道路)で街道レースを繰り広げていた。
映画の中で大活躍したトライアンフは、時代の格好良さを先取りしていた。細身の車体は力強さと繊細さを併せ持ち、バーチカルツインのピックアップは官能を揺さぶり、鼓動はハラワタに染み渡った。そこには今のハイテクを駆使しても陵駕しえない動物的な感覚や色気すらあった。当時の“ドデッ”としたハーレーや、色気も素っ気もない日本の実用車とは全く違う輝きを放っていた。
映画に登場したトライアンフは、650cc OHV 2気筒の『タイガー110』だった。その後、チューンアップ版の『トロフィー』と『T120ボンネビル』が生まれ、この2台は長いトライアンフの歴史の中で頂点を飾った。T120というのは最高速が120マイル(約193km/h)出ることを示した。当時はジャガーも『XK120』、『140』、『150』というように、如何にスピードが出るかを誇示する名を付けていた。
ちなみにトロフィーは、国別対抗トライアル『ISDT』で、『スピードツイン』を駆る英国チームが1948年に優勝し、トロフィーを獲得したことから名付けられたものだ。また、1959年に登場した『ボンネビル』は、米国ソルトレイク・ボンネビルの最高速チャレンジで310km/hという偉業を成し遂げたことを記念して命名された。このマシンは空気抵抗を減らしたストリームライナーに『T110』のエンジンを積んだもので、当時としては考えられない速度を達成した。
それにしても有刺鉄線を跳び越えるシーンはハンパではなかった。その大ジャンプに憧れ、多摩川の河原でジャンプを練習していると、AJSのダウンチューブがボッキリ折れてしまった…。サスペンションがプアーな50年代のバイクでは、着地と同時に切れてエンジンが落ちてもおかしくなかったのだ。その後、トライアンフもAJSもダウンチューブが2本になり、車体の剛性が高まった。ジャンプの練習をしたAJSは1954年型の16Cという350ccのモデルで、なかなかの高性能だった。
ちなみに単気筒を早く走らせるにはコツがあり、スタート時にアクセルを開け、4,000回転以上でクラッチミートさせる。単気筒は大きなフライホイールマスを上手く使うことがカギで、河原の芝を10メートルぐらいも削り取って猛ダッシュするのだ。
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