VIRGIN TRIUMPH | 2-4 クラシックレースでトップを飾る 立花 啓毅さんのコラム

2-4 クラシックレースでトップを飾る

  • 掲載日/2015年05月01日
  • 文/立花 啓毅(商品開発コンサルタント)

私自身、多くのトライアンフに乗ってきたが、なかでも1948年型、排気量500ccの『トロフィー』は、今でも忘れることの出来ない魅力的なバイクだった。その後に購入した650ボンネビルやトロフィーよりピックアップが良く、きめ細やかなフィールだった。

立花啓毅さんのコラムの画像

なにしろその20年後に発売された、通称くじらタンクの『CB450』すら寄せ付けなかった。それだけでなく、言葉では言いつくせない官能の世界を持っていた。この500ccのシリンダーは他とは違い、四角い格好をしたアルミ製で、一説によると発電機用エンジンのシリンダーを流用したという。

また現在、レースに使っている『トライトン』は、お馴染みOHVの650ccだが、ツクバのLOCレースでOHC4気筒の『CB750』と互角に渡り合っている。最高速の出るバックストレッチでも全く引けを取らない。

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勿論、カムなどを換えてチューンを施してはいるが、1937年に設計されたエンジンが如何に高いポテンシャルを持っているかが判る。具体的には、メガサイクル社のKZカムやCRキャブなどを組み合わせている。しかしエンジンというのは高価な部品を組み込んだからといってパワーが出るものでもない。大きな吸気脈動を作り、燃焼室に如何に新気ガスを充填するかで決まる。その点クロスフロー型燃焼室は効率が良い。これはインレットバルブからエアファンネル先端までの長さと径であり、またエキゾーストも同様である。

その排気にはわずか0.6mmの鉄板を丸めてパイプを作り、それを曲げている。その効果は大きく、重量はチタンより軽い。もちろん自作で、溶接棒をほとんど使わず仕上げている。最近は騒音規制でサイレンサーを付けざるを得ないが、何台か作っているうちに、低い排圧でも消音効果の高い構造に辿り着いた。

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半球型燃焼室は、一見良さそうに思えるが、圧縮を上げると実際の燃焼室は「への字」型になり、クエンチングゾーンが増え、火炎伝播が悪化する。そこでプラグ位置をセンターにした。苦労しているのはゴールドスターで、圧縮を11.5まで上げたら火炎伝播が悪化したためか、ピストン温度が低くパワーも上がらない。ツインプラグかセンタープラグにすれば良いがそんなスペースもない。

話を戻し、レースでは軽量化は最大の武器となるため、ビス1本に至るまで徹底している。そうは言ってもTZのドラムブレーキは重く、ミッションもクワイフ製に比べるとかなり重い。しかし種々の努力によって車重は130kgとなった。

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エンジンの位置も大切で、エンジンの重心をロール軸に近づけるため、前に25mm出し、さらにフロントフォークを短くして前を下げた。これに合わせバネレートを高めた。車体剛性が低いのであまり高めたくはないが、スピードが上がりストッパーまでの余裕がないからだ。

またバネ自体も重いので、軽量化のため同一バネレートで巻き数を減らしたものを作った。すると面白いもので、バネレートが同じにもかかわらず、全くフィーリングが違う。これは思わぬ副産物で、バネに腰が出たように感じる。無論、プリロードは同一である。これらの変更で接地感が増し、旋回性が高まってきた。

トライアンフのエンジンは、高いポテンシャルを持つためパワーは出せるが、幾つかの難点もある。ひとつはマックスパワーの7,000rpm付近で大きな振動が出ることだ。この振動は半端ではない。ネジ類が緩み各部に亀裂が入るだけでなく、ステップから足が浮き、踏ん張ることができない。あまりにひどいので、近々クランクのバランスを取ろうと思っている。

さらに大きな問題は、シリンダーが上下方向に真っ二つに割れてしまうことである。原因は基本設計が63×80mmのボアストロークを、71×82mmの650ccまで拡大したことでシリンダーの肉厚が薄くなったためだ。特にクランクケースの取り付けボルト付近が薄く、そこに応力が集中し、金属疲労を起こすものと思う。なかでもスリーブ入りシリンダーは発生しやすいのでご注意を。というのも以前、シェイクダウン中、突然、ガタガタ…と大きな音と同時に真っ赤な炎に包まれたことがあった。シリンダーがバクバクと口を開き、オイルが飛び散り、焼けたエキゾーストパイプで引火したのだ。ブーツやツナギにも火が付いた。なんとか消し止めたが、大惨事になる寸前だった。

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ここまでパワーを出すと、ノートンのフェザーベッドフレームでも剛性の低さを露呈するが、車重が軽いこともあって、このチューンしたトライトンほど痛快なバイクもない。

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