VIRGIN TRIUMPH | 番外編 1-2 デイトナ675R「まずは箱根で足慣らし」 立花 啓毅さんのコラム

番外編 1-2 デイトナ675R「まずは箱根で足慣らし」

  • 掲載日/2015年10月02日
  • 文/立花 啓毅(商品開発コンサルタント)

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喜び勇んで手に入れたデイトナ675Rもなかなか乗る機会がなかった。しかし初秋の気持ち良さを感じると、いてもたってもいられず、引っ張り出すことにした。場所は箱根の南斜面にある湯河原パークウェイだ。

初秋の箱根は空気が澄みきり、実に気持ちがいい。さらにここは交通量が少ないため気持ち良さに拍車がかかる。

675Rは、前回ご説明したように“野獣的快楽”と“人馬一体感”が見事に両立したマシンだ。走り出すと、脳天を突き刺すような野獣性を発揮しながら、一方で狙ったラインを5センチとずらさない正確性を持ち合わせている。

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野獣性を感じるのは、エンジンの爆発的な瞬発力とクォーッ!と鳴り響く吸気音だ。あたかも野獣が獲物を狙って猛ダッシュするかのようで、ここが国産エンジンとの違いである。

注目すべきは「トルク面積」の大きさである。低回転域から最大出力の12,500回転まで高トルクが続く。実際にはまだバイクも人も馴らし中のため、フルには回し切っていないが、トルク面積の大きさが実感できる。

良いエンジンの基準は、如何に大きなトルク面積を持っているかだ。低速を落として最大出力を稼ぐのではなく、下から上まで広範囲で高トルクを発揮させる。こういうエンジンは燃費も良く、サーキットでも好タイムを出しやすい。トルク面積は技術力そのもの、だからそう簡単ではない。良いエンジンに巡り合うと、なぜか嬉しくなる。

675Rは、1気筒あたりの容積が225ccと大きいため、150ccの4気筒600ccエンジンよりトルクが出しやすい。今回のフルモデルチェンジでは、ボア×ストローク比を1.41から76×49.6mmの1.53へとかなりショートストロークに振った。

同時に圧縮比を12.61から13.0へと高め、カムやバルブ形状まで見直されている。さらにツイン・インジェクターを採用し、ガソリンの霧化を促進している。

これらの積み重ねで、公表の最高出力や最大トルクは旧型と変わらないものの、よりトルク面積が大きくなったものと思う。

ツイン・インジェクターにより燃料を微細にセットできた効果だと思うが、極低速のパーシャルからスロットルを開けると、どこからでもリニアに追随し、目線が追い付かないほど加速をする。128psに納得する瞬間だ。

スロットル開度はやや深いが、極低速からの乱れの無さは「スゴイ!」の一言。旧型からの大幅な進化だ。

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もうひとつ野獣性の演出に欠かせないのは、巧みな吸気音である。強力な加速Gに加えてクォーン! という雄叫びは、右脳をダイレクトに刺激してくる。こういった感覚は単気筒のハスクバーナ SM250にもあり、日本車では味わえない。

逆にちょっと残念なのは、日本向けに装着された大型サイレンサーだ。本国仕様はマスの集中化を図るため、サイレンサーをコンパクトにしてエンジン下部に収めた。ところが日本仕様のサイレンサーは、あまりにブザイクだ。近いうちに何か対策を考えたい。また車重は184kgだが、足つき性も合せて取り回し時に重さを感じる点も手を打ちたいと思う。

しかし狙ったラインを5センチとずれない正確性はハンパではない。スペックを見てみると、エンジンと同様、徹底的に見直しが図られている。フレームやスイングアームのみならず、前後サスペンションなど、全てを新設しているのだ。

数値で見る変更点は、ホイールベースを20mm短縮して1,375mmとし、キャスター角を1度立てて23.0度にしたことだ。これによってターン・インがし易くなり、回頭性が上がったように感じる。一方、車体剛性はかなり高く、峠道を含む一般道では高過ぎると思うほどだ。

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お陰様で官能の世界に浸りながら、初秋の箱根を満喫することが出来た。しかしマシンに言わせれば、実力の半分も発揮していない! と言われてしまうほど、このマシンは強者(つわもの)である。

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