3-4 我々の先生だった英国は皆さんクルマ好き
- 掲載日/2015年12月04日
- 文/立花 啓毅(商品開発コンサルタント)
少し前のことだが、あるクルマの設計をイギリスの開発会社にお願いしたことがある。社内が手一杯だったため、日本でレイアウト図を作成し、これらを基に図面化する仕事だ。
その会社を訪れると、駐車場にはなんとMG-BやTR-4、オースチン・ヒーレー スプライトが並んでいるではないか。社長さんはじめ多く方々が、1950?60年代のスポーツカーで通勤されている。
その夜のウエルカムパーティでは、社長がご自身のコレクション写真を見せてくれた。古いLWS(ライト・ウエイト・スポーツ)を何台も所有され、戦前のMG-NやTCを自らレストアしている光景もあった。
私もMG-Bやジャガー Eタイプのレストアに苦労していたため会話が弾み、一気に距離が縮まったように感じた。そんなこともあってか、仕事はスムースに展開した。
帰国すると、今度は社長から欧州視察をしたいので、一緒に行かないかという電話が入った。マツダの山崎芳樹社長と2人で、メルセデスとBMWの本社に伺うことにした。
すると先方も、社長をはじめ経営陣総出で出迎えて頂き、盛大な晩餐会を開いてくれた。挨拶がてらに「日本には来られたことがありますか?」などと聞くと、なんと驚くことに、全役員が日本の自動車メーカーを何回も視察されていたのだ。少ない方で5回、多い方では16回もだ。
そしてBMWからは「日本に負けない生産ラインを創る!」と豪語され、「まだ秘密だが…」と言ってちょこっと見せてくれたのは、とんでもない恰好をした生産システムだった。
BMWのミュンヘン工場に行くと、生産ラインの横にビールの自動販売機が置かれていた。作業員はビール瓶の栓をプッシュと抜いて、その小瓶をインパネの上に置き、ネジを締めている。彼はそのビール瓶とラジカセを持って次のクルマに移動し、ニコニコしながら私に手を振っている。
案内の方に聞くと、「戦後の食糧難の時に、人々はビールを飲んで飢えをしのいだのです。そのため彼らからビールを取り上げることは出来ないのです」と言う。
メルセデスもBMWも、対応されたトップの方々はいずれもクルマがお好きで、古いクルマに精通されていた。
またオーストリアのディーラーに伺った時のこと。田舎のディーラーだったが、そこの社長は半端ではないクルマ好きで、仕事の話もそこそこに、裏のガレージでレストア中のアルファGTAを自慢したくてたまらない様子だった。奥へ行くと、古い木造の納屋の中に、ピカピカに光った赤いGTAが収まり、実に絵になる光景だった。
こちらがクルマ好きと判ったのか、ご自身でレストアされた様子を話しはじめ、とくに薄いアルミボディの再生にはだいぶ苦労されたようだった。温和な人柄も含め、親しみを感じることが出来た。
小さな設計会社も大企業の社長さんもディーラーのおっさんも、皆さんクルマ好きが高じてクルマの仕事に携わっている。クルマ好きが高じて自動車を作るというのは当たり前のように思うが、残念ながら日本ではあまりお目に掛からない。この差が商品に現れているように思う。何ごとも「ユーザーのマインド」を越えなければ、人を感動させるモノは創れないと思う。
イギリスにはクルマの設計をお願いに伺ったのだが、私自身、何とも複雑な気持ちだった。というのも、かつての先生にお金を払って、我々の指示に従って仕事をしてもらうからだ。
『2-3 アメリカで大成功したトライアンフ』にも記した通り、英国車は日本の先生だった。有名なところではメグロK1(後のカワサキW1)はBSAのA10を先生とし、キャブトンはアリエルを、モナークはベロセットそっくりさんだった。とは言ってもモナークはなかなかの高性能車で、お手本が高性能だと、当然の如くそっくりさんも高性能で群を抜いていた。
このように、日本のバイクは英国車の影響を大きく受けている。それはクルマも同様だった。“技術の日産”でさえ、少し前まではイギリスのオースティンと技術提携し、クルマ作りを勉強した。日産の工場ではオースティンA40がノックダウン生産されていた。そのためダットサンのエンジンはオースティンと瓜二つで、サニトラやブルーバードのエンジンにもBMCの部品が使えた。
日本の先生だった欧州メーカーは、今もクルマ好きが高じて自動車やバイクを作っている方が多い。またアイデンティティを大切にし、人と同じであることを嫌う。そういったことの積み重ねで、彼らは今も、独自のブランドに磨きをかけている。
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