5-1 グッドウッドというところ
- 掲載日/2016年05月13日
- 写真・文/立花 啓毅(商品開発コンサルタント)
テレビでお金持ちの豪邸を拝見すると、ガレージに高級車がずらりと並び、庭にはプールやテニスコートがあったりする。豪邸と言うと、ついついそういったビバリーヒルズの光景をイメージしてしまう。
ところが英国貴族の屋敷というのは、そんなものではない。ケタが違うのだ。今回はグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードを主催されるマーチ伯爵邸に伺った時の話をしよう。
場所は、ロンドンからクルマで1時間半のサセックス州チチェスター。招待状を手にクルマで向かったが、どこに家があるのかさっぱり判らない。地図を見ながらグルグル走り回っても、人やクルマとすれ違うこともない。
それはそのはず、彼の敷地は10万ヘクタールもある。10万ヘクタールというのは一辺が31.6キロ平方だから、東京23区がすっぽり収まってしまう。その敷地の中を1人ウロウロしていたのだ。
やっと「入口」と書かれた小さな看板を見つけた。
私は1991年に、ル・マンで優勝したマツダ787Bでメインイベントのヒルクライムレースにエントリーしている。そのため、早めに伺ったのが裏目に出て迷子になってしまった。
その看板に沿って路地を曲がると、右手にはなんと飛行場と格納庫があるではないか。その横を通ってさらに進むと、緑に覆われたゴルフ場、そしてオーバル状の競馬場もあった。
有名なクラシックカー・レースが行なわれるサーキットを覗いて見ると、その美しさにびっくり。コースは綺麗に手入れされた芝生に覆われ、白いペンキが塗られた木の柵とクラブハウスがある。
今回のグッドウッドはここではなく、1.87kmのヒルクライムコースとファミリーハウス前のロータリーで行なわれる。
その一角にマツダのブースを設営し、フレンチのケータリングで各国からの招待者を迎えた。久し振りにお会いする方も多く、歓談していると、オープニングセレモニーが始まるという。
セレモニーが行なわれるドライバーズサロンは、フローリングの床が張られた巨大なテントだ。そこではシェフがフレンチを用意し、シルクシャツを着たウエイターがサーブしてくれる。誇り高きイギリス人も食事はフレンチというのも面白い。
会場にはすでに、ジョン・サーティーズさんなど往年のレーシングドライバーから現役のF1ドライバーまでいらしていた。
早速更衣室でレーシングスーツに着替えると、隣はジム・レッドマンさんとルイジ・タベリさんだった。向うは私のことを知らないだろうが、こちらからすると懐かしく思い、片言の英語でご挨拶。
そのサロンで、元ホンダ社長の川本信彦さんと一緒に食事を取ることにした。彼はホンダのレーシングスピリット、そしてホンダイズムの真髄を構築された方だ。サーキットではこんな雲の上の方々ともフランクに話ができる。まさにレースは社交の場である。
グッドウッドには2輪車も多く集まる。特にホンダは冠スポンサーを続けていたこともあり、往年のレーシングバイクがずらっと並び、ホンダサウンドを響かせていた。今では考えられない250ccの6気筒エンジンなど、世界を制覇したマシン達だ。
このホンダサウンドを聞きつけ、多くの観客が集まった。そう! このホンダサウンドは我々だけでなく、子供たちにも夢を与えてくれる。
この時のグッドウッドは、気候の良い6月の18、19、20の3日間で行なわれたが、全く時間が足りない。なにしろジャズコンサートがあるかと思えば空では航空ショーが行なわれ、頭上スレスレのアクロバット飛行や、ユンカースがゆっくり飛んで見せる。
そして競馬場ではシャリオという1人乗りの馬車レースが行なわれている。このレースも圧巻で、コーナーでは馬車がドリフトしてぶつかりあっている。
その周りには数え切れぬほどのショップが軒を連ねていた。自分のEタイプをいかにしてライトウエイトEにすべきか、頭を痛めていたところに、ズバリそんなショップがあったりして、そこで話をしていると他が見られなくなってしまう。こんなイベントが個人の庭で行なわれるのだ。
このマーチ伯爵邸だけでも説明しきれないが、ここに来るまでの道中も、テレビで見る豪邸とはケタが違う。かつて世界の4分の1を支配していた大英帝国は、今も健在であることを感じた。
こうやってイギリスの底力を知ると、日々のゴタゴタはアメリカにまかせて「英国は世界の重鎮である」という自負心を垣間見たような気がする。
因みに2015年はマツダが冠スポンサーとなり、長い間、ル・マンで戦ってきた数々のレーシングカーを持ち込んだ。
同時にヤマハの60周年記念イベントも行なわれ、ロッシが相変わらずの超人気ぶりを発揮していた。
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