5-3 グッドウッドから現実の日本車を見ると
- 掲載日/2016年08月05日
- 写真・文/立花 啓毅(商品開発コンサルタント)
グッドウッドで輝いているクルマ達を目の当たりにすると、色々なことを考えさせられる。ここのクルマには、時代やその国の文化、さらには作り手の心意気までを感じることができる。
名車とは、そういった文化を発信しているものだと思う。1930年代のフランス車は、アールヌーボーの優雅さを誇り、1950年代の英国車には、長閑な丘陵を抜けるにふさわしい小粋なスポーツカーが多い。1960年代のアメ車は、まさにアメリカンドリームそのものではないか。日本車だって、スバル360を筆頭にユニークなクルマで溢れていた。
こういった名車達を目の当たりにすると、クルマというのは何が進化したのだろうか? と思う。最近のクルマは魅力に欠けているだけに、我々、技術屋は何を進化させたのだろうか?
一握りのブルジョア達のクルマを、より安く、より丈夫に、庶民の生活道具として、洗濯機や炊飯器と同じレベルにまで引き下げた。その結果、生活は便利になり、経済も潤った。
その間、飛行機はジェットになり宇宙にまで発展したが、クルマは進化していない。それは地上を走る以上、人間の能力内に留めなければならないからだ。そのため、クルマは既に完成の域に達し、均一化しつつある。
ところがロールス・ロイスはやはりロールスだし、メルセデスはメルセデスで、キャデラックはキャデラックである。そこにはメーカーの、またその国の文化が色濃く反映されている。
しかし最近の国産車は、白モノ家電と言われるように味もそっけも無い。白モノというよりはデジタル時計のようだ。正確で壊れることもないが、秒を刻む鼓動が無い。
どこのメーカーも立派な研究所を持ち、巨額な開発費をつぎ込んできたのは、クルマをデジタル時計にするためだったのだろうか?
グッドウッドに集まったクルマが単なる道具とは違う輝きを放っていただけに、いろいろと考えさせられた。
当時は、プランナーは勿論のことデザイナーもいなかった。優秀な技術屋が試行錯誤しながら自分の考えで作り上げたのだ。だから「作り手らしさ」が表れ、個性的でユニークなクルマが誕生した。
一個人の力量で作られたため、駄作も多かった。そんな駄馬でも人々から愛されたのは、作り手の情緒がモロに出ているためで、それが魅力的に映るのだ。
グッドウッドから現実に戻ると、日本車のデザインがあまりにひどい。
因みに、2015年に生産されたクルマは全世界で8,600万台。国別にみると、日本がトップでそのうちの約3割を占めている。その大量に作られたクルマのデザインは、申し訳ないがどれも薄っぺらに見える。
人々は穏やかに暮らしたいと思っているはずなのに、クルマの顔はどれも刺々しい。なかにはソリ込を入れたお兄ちゃんのようなものもある。
どうしてだろうか!?
クルマの発表会でよく聞くトップの言葉は「このクルマは、我々年寄りは口を挟まず、若い人の感性に任せました」だ。
感性というのは、種々の経験が積み重なって育まれるものだと思う。無論、若い人には若い感性があるが、それだけでは奥深さが出ない。欧米のメーカーをみると、年配の方が作業をされ、またお目付け役でおられる。
クルマは単なる道具ではなく、生活を潤してくれるもので、さらには街の景観の一部でもある。では、この薄っぺらな原因はどこにあるのだろうか?
ひとつは、開発には巨額な投資を要するため、失敗しないように市場調査を行い、お客様の声を聴く。すでにそこが誤っている。作り手はプロなのだから、お客の声を聴くのではなく、彼らのマインドを超えていなければならない。声は聴いても検証程度にとどめておくことだ。
人は文章を書いたり絵を描いたり、色々なモノを作る。出来上がったモノは、上手い下手にかかわらず、その人らしさが表れる。大らかな人は、絵もどことなく大らかになる。それが作り手の文化だ。だから怖い。
怖いというのは、生まれてから今まで育った環境がそのまま出るということだ。人は一生の間に2万個のモノに触れて育つという。鉛筆、ナイフ、茶碗、箸、家具、家…。数え上げたら2万個になるかどうかは判らないが、どういう2万個と一緒に暮らすかによって、自ずとその人の価値観が形成される。普段使っている言語も、なぜか2万個あるというから、何らかの因果関係があるのかもしれない。
人は良いモノを手にすることによって「目利き」になり、自分なりの哲学も生まれる。これらが育まれないと、人を感動させる「いいモノ」は作れない。
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