6-10 小粋な『トライアンフ・タイガーカブ』
- 掲載日/2017年08月11日
- 写真・文/立花 啓毅(商品開発コンサルタント)
前回ご紹介したBSAビクター441のベース車両は、250ccのC15という真面目一辺倒な実用車だった。日本では考えられないが、この250ccの排気量を350、441そして最後には500ccへと拡大したのだ。
このC15には原型があり、それが今回ご紹介するトライアンフのタイガーカブである。
かの有名なエドワード・ターナーは、タイガーカブのエンジンを基に新設計し、ボア・ストロークを67×70mmとした249ccエンジンを開発した。これがC15で、BSAだけでなく、トライアンフのTR25にも使うようになり、1958年からトライアンフとBSAは同一エンジンとなった。
ベースとなったタイガーカブのエンジンも、その元はテリア(T15)という150ccで、それを200ccへ広げ、1952年に車名をタイガーカブT20として発表した。
英国車は2輪も4輪も丸ごと新設計することは少なく、リファインを繰り返して進化することが多い。そのため共通部品が多いのが特徴で、部品が安く、いまだに供給され続けている。
フレームも同様で、初期のタイガーカブとテリアは、プランジャー型のリアサスペンションを採用し、見た目はほとんど同じである。しかしタイガーカブはホイールベースを100mmも短縮し、車重も88kgに抑えたため、軽快で実に楽しいバイクとなった。
大ヒットした理由は運動性能の高さだけでなく、タイガーカブの車名が示すように、当時一世を風靡したバーティカルツインのタイガー100のイメージを踏襲した効果も大きい。
エドワード・ターナーはエンジン設計に長けていたが、それだけでなくタイガーカブをちょっとお洒落でスポーティなバイクに仕上げた。それでいて燃費も良く経済的だった。またスポーツカブやスクランブラーなど恰好いいモデルを次々に登場させた。
その人気は本国のイギリスは勿論のこと、アメリカや日本にも広がり、またたく間に世界的な大ヒット商品となった。
この俊敏なタイガーカブをオフロード好きな英国人が見逃すわけはなく、多くの人々がこれを改造してトライアルやスクランブルなどのコンペに出場するようになった。
トライアンフ本社も彼らの要望に応えてTS20のカブ・スクランブラーを発売(1962年)。フロントに21インチのブロックタイヤを履かせ、ストレートのエキゾーストはフレームの内側を通り、そのスタイルは惚れ惚れするほど格好いい。
じつは私がまだ中学生だったころ、兄の友人がタイガーカブで我が家にやって来て、フロントタイヤを上げてダッシュする姿を見せつけたのだ。それからというもの、この格好いいシーンが脳裏から離れなかった。当時の国産バイクでフロントを浮かして走るなど考えられなかったからだ。
そんなことから、いつかはタイガーカブを手に入れ、信号グランプリでウイリーをキメてやろうなんてバカなことを考えるようになった。それからだいぶ経って、やっと手に入れたのが写真のものだ。
入手時はガタガタの不動車だったが、それを直して最後に明るいブルーとシルバーに塗り分けた。
タイガーカブのエンジンは63×64mmの199ccで、8.5のハイコンプピストンを入れたスポーツモデルでも14.5HP/6,500rpmしかなかった。たかが14.5HPだが、じつに気持ちの良いフィーリングを持っている。
トライアンフは、ターナーが1937年に設計したバーティカルツインエンジン以来、素晴らしいフィーリングを誇っている。特にT100系のアルミエンジンはピックアップを含め、恐らく今でも世界最高峰のフィールであると思う。
そこには今のハイテクを駆使しても陵駕しえない動物的な感覚があり、官能を揺さぶり、鼓動はハラワタに染み渡った。
ではタイガーカブの車体の方はどうかというと、スイングアームに作り替えたと言っても、フレーム剛性は今の基準からするとかなり低い。当時でも低い部類だった。
構造は自転車フレームと似たり寄ったりで、しかもメインパイプはガソリンタンクを置くためか、湾曲させて逃がしている。
ところで、念願だったウイリーは出来たかというと、17インチタイヤを履かせたこのモデルでは難しく、やはりフロントに21インチを履かせたマウンテン・カブかスクランブラーでないと、簡単ではないということが手に入れてからやっと判ったのだった。
- エンジン=空冷単気筒OHV
- 排気量=199cc
- 内径×行程=63×64mm
- 出力=10~14.5hp/6,000rpm
- 車重=88~109kg
- 変速機=4速
- サスペンション=F:テレスコピック/R:スイングアーム
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