番外編6 気迫みなぎるmotoGP日本グランプリ
- 掲載日/2017年11月10日
- 写真・文/立花 啓毅(商品開発コンサルタント)
久し振りにmotoGPの応援にモテギに向かった。しかし残念なことに前日からの大雨で気温は13度しかない。そんな中5万3700人ものファンが集まり、サーキットは熱気に溢れていた。
参戦する日本人選手はスポットを含め10名。motoGPクラスには青山、中須賀、野左根。moto2には中上、榎戸、水野、長島。moto3には鈴木、佐々木、鳥羽である。
やはり実戦はTVとは大違いで、3コーナーの脇に陣取れたこともあり、わずか数メートル先でバトルが展開される。その迫力に度肝を抜かれた。
moto3の練習走行が始まって早々にオイルをほぼ全周にまき散らすという惨事が発生。ウエット路面にオイルだから超危険な状態となった。コース員が1時間半もかけてオイルを除去したが、FIMの係員が濡れた路面を手でさわり、臭いを嗅いで再度、入念な清掃を行った。
やっと走行再開。ポストではオイル旗を振っているが、そこにmoto3のマシンが猛スピードで入って来た。そのスピードは半端ではない。正直、ドライ路面でもこのスピードでは突っ込めない。
moto2、motoGPとなるとさらに速く、GPライダーは、こうも違うものかと、その速度に度肝を抜かれた。
排気音もTVとは大違いで、moto3の250cc単でも重低音が鳴り響き、500cc単のレーシングエンジンのようだ。
moto2は、360度クランクの直4のため切り裂くような甲高いレーシングサンドを響かせている。
motoGPともなると、直4とV4、またクランク角を変えていることもあり、地響すら感じる。その爆音で空の雲が消えるなんていう逸話も生まるほどだ。
集団が抜けた後は、独特の排気ガスの臭いで眼がチカチカする。かってはアブガスを使っていたが恐らくそういった類だろう。
今回は久し振りに家族揃っての応援で、応援する選手は沢山いる。その中でも注力はmoto2クラスの中上貴晶だ。motoGP昇格が決まってからか気合が入ったように感じる。今回はお膝元で、本人も得意のコースと言うだけあり苦手な雨でもポールポジションをゲットした。決勝でもスタートからトップに立ちファンは大声援を送ったが、リアタイヤの接地性が悪化し、最後は6番でゴール。
もう1人応援しているのが、まだ無名に近い97番シャビ・ビエールだ。予選では中上のスリップストリームを使い3位を獲得。誰もが漁夫の利を得たと思っていた。ところが決勝では、その中上を交わし、なんとアレックス・マルケス次ぐ2位という過去最高位を成し遂げた。
ピットに伺うと、彼のバイクはテック3のフレームにKYB(カヤバ)のサスを取り付けている。KYBのダンパーは、微小ストローク時のフリクション・コントロールに優れているため恐らくウエット路面での接地性が高かったものと思う。
KYBは2019年からmotoGPにも参戦を目指すというから非常に楽しみだ。オーリンズとWPの中にKYBが割って入ることになる。
同じ19年からmoto2のエンジンは、CBR600RRに変わってトライアンフのスピードトリプル用3気筒765ccが採用される。出力は133ps・80Nmと強力。これによってレースがどう変わるかも興味深い。
本命のmotoGPの応援は、ゼッケン5番のヨハン・ザルコと46番のロッシだ。ザルコはデビューのカタール戦で、いきなりロッシ、マルケスを抑えてトップをリード。しかもマシンは1年落ちのヤマハYZF-M1で、サテライトのテック3からだ。
その走りは、多くの人を魅了した。今回も雨の中、並み居る強敵を尻目にポールを獲得。しかし決勝では残念なことに力およばず8位。
ザルコ選手はなかなかの親日家で、ヘルメットはインパクトある旭日旗だ。まるで右翼団体の総長かと思わせるが、このデザインは、当時、早かった日本人ライダーをリスペクトして採用したという。
かってスズカで行われていた時代は、9つある表彰台のうち8つを日本人がゲットするという時代があった。そのため日本人ライダーをリスペクトしている人は多い。
日本ではGPライダーと暴走族の区別さえもつかない人もいるが、欧州ではヒーローで尊敬される存在なのだ。
一方、ロッシ選手は、世界中に熱狂的なファンが多く最も愛されている選手だ。明るいキャラだが、その裏では壮絶な練習があるようで、今回は練習中に脛(すね)の骨を2本とも折り、びっこを引いての出場だ。
彼は絶好のスタートを切ったが、残念なことに転倒しリタイア。ヤマハの今年度マシンはヴィニャーレスも含めウエットでのセッティングが出せず苦戦を強いられていた。
レース展開は非常に面白く、ドカッティのドヴィツィオーゾとホンダのマルケスがチェッカー寸前まで闘志むき出しのデッドヒートを繰り広げた。ドヴィはすでにタイヤが摩耗し、水はけの悪い状態で300km/hでのアクアプレーンを抑えながらマルケスのインを刺す。
マルケスもクロスラインでドヴィと接触しながら抜き返す。一瞬、ハイサイドで身体が宙に浮いたが、猿のような身体能力でリカバー。最後はドヴィがマルケスをギリギリのところで交わしチェッカーを受けた。まさに気迫みなぎる超人の世界で、歴史に名を残す名勝負となった。
超人を目の当たりにして思うのは、彼らは1、2週間おきにこの激闘を繰り広げながら世界を転戦することだ。年間ランキングを競うため風邪を引こうが骨を折ろうが成績を残さなければならない。ロレンソのように予選で転倒し鎖骨を折ってもヘリで病院に行き、翌日の決勝に出場するのだからまさに超人以外の何者でもない。我々のような草レースでも毎週では身体が持たない。
サーキットの観戦は、良い場所に陣取っても、眼の前を通過する瞬間しか見えない。それでも解説付きのTVとは大違いで興奮する。ライブコンサートに行くと、その後にCDを聞けないのと同様で余韻に浸ることができるのだ。
私はパドックにいたためトイレに行くと、隣にツナギを着たロドリゴ選手がいたりして、仲良く放尿。といったシーンもあり、こんなことはTVでは味わえない。
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