DAYTONAレースダイアリー vol.04
- 掲載日/2015年01月23日
- 文/江本 陸(ライター) 写真/横山 泰介
お正月気分もようやく抜けて、さぁ今年も“良い加減で”頑張るぞ、と社会復帰に勤しむ今日この頃。みなさんもお正月の連休を利用してツーリングを堪能したり、はたまたサーキットでの初走行を無事にこなしたなど、思い思いのライダーズニューイヤーを迎えられた事と思います。当方はぬくぬくとしたストーブリーグとあり、デイトナのシートを暖めるのでもなく、のほほんとした気分で今年のレースや愛機の進化に心を傾けているのであります。
新春とはいえ冬のまっただ中。そこで今回はトロピカルムードに浸って頂こうと、“レイ”と“月桂樹のリース”にまつわる四方山話を綴ってみました。
アオアフ島のホノルル、ダウンタウンのアリオラニ・ハレに建つ、大きなマントを身に纏い、羽飾りの冠を戴いたハワイの英雄、カメハメハ大王の銅像を御存知の方も多いのではないでしょううか。
彼はハワイ統一を成し遂げた大王としてだけではなく、偉大なる戦士、そして自然界に存在する大きな力の象徴として、ネイティブハワイアンをはじめ、島民から敬愛されています。その証として、彼の銅像にはフレッシュなレイで覆われているのです。
ここで質問をひとつ。カメハメハ大王の冠とレイは、いったい何を表しているのでしょうか? その答えは、冠は『波』を、レイは偉大な人物への『リスペクトと親愛の念』を表しています。
古代ハワイでは、波を地球上に存在するエネルギーの象徴と捉えていました。そして巨大な波を征する真の勇者には、強靭な肉体と人知を越えた偉大なスピリットが宿り、民を導くリーダーとされていました。今となっては冠を戴く習慣はなくなってしまいましたが、こうした先人達の教えは“レイを贈る”というセレモニーを通して、ハワイアンの心の中に深く刻まれ、その伝統的な行為は今日まで脈々と受け継がれているのです。人への親愛や神秘的な意味合い、そして友情のシンボルなど、レイには様々な想いや深い意味が秘められていますが、そのひとつに、なにかに秀でた人は、心身ともに“特別な存在”と考えられています。
レイにはこうした様々なバックグラウンドストーリーが多分に含まれています。そのためハワイでは、ノースショアのワイメアをはじめ、特別な日に行なわれるサーフィンのコンテストや、オアフ島からモロカイ島へと海洋を渡るカヌーレース、パドルボードを使用するパドルレースなどのビッグベントのみならず、勝者に対して勇気、名誉、栄光への賛美、そして海に宿る神々や自然への感謝の証として、トロフィーと共にレイが贈られています。
一見、オーシャンスポーツのメッカと思われがちなハワイですが、実はモーターサイクルを楽しむサーファーも多く、週末になるとどこかのスタジアムやフィールドでオフロードレースが行われるほど、意外にもモータースポーツが盛んです。こうした場面でも南の島のレースに相応しく、ウイナーの栄光と名誉を讃える喝采と共にレイが贈られているのです。
この様に、植物を神聖なものとして捉え、彼等の功績を讃えて丹念に手で編み込んだ植物を贈る風習は、なにもハワイだけに限った事ではなく、地球上のあちこちで似た様な事が行われています。
例えばギリシャでは“生誕から復活”という宗教的な意味合いを持つとされる、月桂樹の冠がオリンピックでは勝者の頭上に輝いてきました。
そうした慣わしが今日まで伝わり、モーターサイクルースでも、表彰台に立つ者への称賛の証とされています。ポリネシアをその源とするレイ、かたや古代ギリシャのオリンピックにルーツがあるとされる月桂樹のリース。そのルーツは海を隔て、遠く離れています。がしかし、レイとリースには、海とサーキットの勝者の勇気と栄光を讃えるという共通した意味が込められているのです。
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