VIRGIN TRIUMPH | DAYTONAレースダイアリー vol.05 江本陸さんのコラム

DAYTONAレースダイアリー vol.05

  • 掲載日/2015年02月20日
  • 文/江本 陸(ライター)  写真/横山 泰介

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人にサーフィンのルーツについて尋ねると、100%「ハワイイ(文中では、リスペクトを込めてハワイアンの発音表記とする)でしょ」という答えが返ってくる。ハワイアンは、彼等の先祖がカヌーで大海原を越え、遥かなる旅の終着点としてハワイイ諸島に辿り着いた時から、サーフィンを文化、そして彼等の“心の源”として21世紀の今日まで大切にしてきた。

現在ではスポーツやライフスタイルの重要な部分として、世界的に愛好者が増加しているサーフィンだが、古代ハワイイでは、日本の相撲がそうであるように、神への奉り事や自然への敬意を込めた、精神的かつ儀式的な要素を多く含んでいた。

昭和歌謡の名曲『憧れのハワイ航路』やプレスリーの『ブルーハワイ』にも歌われたように、地球のパラダイスとして多くの人が憧れを抱くハワイイだが、その昔のそのまた昔、ハワイイ諸島は各島に分散する部族間の争いが絶えず、かなり残酷な殺戮が行われていた。

ちょっと話は逸れるが、男性による好戦的なスタイルのハワイアンダンスがある。そのルーツは古代のハワイイ人がテリトリー以外の島に上陸する際、そこに住む先住民族に対して自分たちをアピールする手段として行なわれていた。こうした振る舞いは日常的ではないが、儀式として今でも受け継がれている。そんなハワイイを、英知と勇気と力を武器に統一した、1人の偉大なる大男が現れた。頭に大きな羽飾りが施されたヘルメットを被り、ゴージャスなマントを羽織って左手に槍を握りしめた銅像で有名な、カメハメハ大王その人だ。

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大王の象徴として、頭上に頂くモヒカンの様な大きな羽飾りが施されたヘルメットは、戦時に身を護る防具であると同時に“波”(ハワイ語でナルー)を象徴している。どうしてナルーなのかというと、ハワイアンは自然界に存在する“マナ”という、大きな霊力を持つスピリットを信じている。ビッグウェイブになればなるほど、物理的なパワーは勿論のことマナの力も大きい。つまり大きな波を征する者は、強健な肉体ばかりか自然と同調出来る精神性と英知、そして何事にも動じない勇気を兼ね備えた“スーパーな人間”と考えているからだ。これもビッグウェーバーがリスペクトされる由縁でもある。こうしたことから、古代ハワイイに於いてハワイイ統一という偉業を成し遂げた大王を讃へ、大きな波の象徴が輝いているのだ。

ヘルメットの上部には飾り物が施されているが、その大きさによって戦士の階級を見分ける事が出来た。また最近では、ハワイイの戦士が戦いの時に身に付けたひょうたんに似た植物をくり抜き、羽飾りやペイントが施された“イカイカヘルメット”のミニチュアがカーアクセサリーとして土産物店で販売されているが、古代戦士が被っていた本物のイカイカヘルメットには霊力が宿ると信じられ、それを被ることで戦士達は何かが乗り移った様に好戦的になったという。

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いつの日だったかハワイイのメジャーポイント、パイプラインのビッグウェーブアタッカーとして世界的に知られる脇田氏と、ヘルメットについて話をする機会があった。そのとき彼は、ファイヤーボールが描かれたお気に入りのサーフィン用ヘルメットを手にしながら「10フィートオーバーのメガウェーブにチャレンジする時は、必ずこの守り神を被るんです。そうすると勇気が沸き、アドレナリンが噴出して恐怖心が消え、ライディングに集中出来る」と語った。

ヘルメットは物理的なプロテクターのみにあらず、ということなのだろう。

レーサーも然りである。一見大胆不敵と思われそうなレーサーだが、その内面はかなり繊細で、験(ゲン)を担ぐ者も少なくない。僕の学生時代からの兄弟分にしてかつての500ccチャンプ、GPライダーの斉藤 仁は、レース本番になるとブーツを左足から履き、サーキットに手を触れ、勝利とレースの安全を祈ったという。

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そして僕はというと、サーキットをレーシングスピードで疾走する場合であっても、その速度に呑まれる事なくスピードの女神様との交友を深め、勝利と無事帰還することの願いを込めて“Flow with the Speed”と、僕のラッキーナンバーである“52”という文字をヘルメットに描いている。

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