VIRGIN TRIUMPH | DAYTONAレースダイアリー vol.12【最終回】 江本陸さんのコラム

DAYTONAレースダイアリー vol.12【最終回】

  • 掲載日/2015年09月18日
  • 文/江本 陸(ライター)

夏の思い出

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コラムの連載が始まってから、あっという間に1年が経ってしまった。毎回何を書こうか、読者の皆様に楽しんで頂けているのだろうか、と自問自答を繰り返し今日この日まで、どうにかなるさケセラセラと書き綴ってきた。

本来ならばDAYTONAレーシングダイアリーの最終稿に相応しく、8月30日に開催されたMax10groupの筑波マイ耐久参戦記を書くところだが、7月28日に参戦した150ccバイクの耐久レースで不覚にもヘアピンで転倒。後続車にヒットされくるぶしの軽い骨折で不参戦。

さてどうしたものか? と思っていたら、ふと我がモーターサイクルライフの原点を振り返っている自分に気が付いた。そのきっかけは、1万円で手に入れた、サビサビで相当やれたイタリア製のモペット(ペダルバイク)『TOMOS(トモス)』だった。完璧なレーサーとは全く違った、この良い加減なテイストが和むのだ。

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街乗りが出来るほどに回復した我が“けなげ君”のテストランと称して、晩夏の風も心地よい海岸沿いの国道134号線を自由気ままに走り続ける。すると50ccの2サイクルエンジンは、予想を遙かにうわまわる快調さを発揮。レースとは真逆の緊張感の無いゆるーい走りにウキウキ気分。

雨が降ったら絶対にバイクには乗らないと決めてはいたものの、どうしたことか、雨の楽しさをスイングするジーン・ケリーの『雨に唄えば』を思い起こすほどに、夕方の豪雨もこれまた楽しい。そんな走りに酔いしれるうちに、うっかり忘れかけてしまいそうな、我がモーターサイクルの原風景が次第に蘇り始めた…。

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1973年17歳の夏、日々モーターサイクルとサーフィンに明け暮れる不祥の息子を案じたのだろう。夏休みを1ヶ月後に控えたある日。父親から自転車でのヨーロッパ一週の旅という、強烈な一撃を食らわされたのだった。その一言はモーターサイクルと共に過ごすという、夏のビーチライフを心待ちにしていた僕にとって、まさに不意打ちだった。

それから間もなくして、真夏の太陽に後ろ髪を引かれつつ、夏休みを待たずして12段変速のサイクリング車とともに、アメリカ製の蝋引きの効いた紙袋に必要最小限の荷物を詰め込み、ヨーロッパへと旅立った。

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はじめはどことなく重苦しかった自転車の旅も、日が経つに連れ同世代の少年少女がモペットの荷台に寝袋を括り、両サイドに振り分けたサドルバッグに旅の必需品を詰め込み、中世の面影を色濃く残す街道を軽快に走り去る姿に「僕の自転車にもエンジンが欲しい!」と心で叫び、旅心に光が差し始めてきた。

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それから何十年も経った今、彼等が満喫していただろうモペットの楽しさを、思う存分に味わう自分が笑えてならない。旅のきわめつけは、なんと言っても自室の壁に貼りまくっていた憧れのトライアンフやノートンコマンド、BSAのカフェレーサー、それとバルセロナの街角で遭遇したブルタコやモンテッサを目の当たりにしたことだろう。

日本ではスワローハンドルやコンチネンタルハンドルが精一杯。DT1やハスラー、カワサキのバイソンはあったけど、ヨーロッパ車のカフェレーサーや本物のトレールバイクなんて見たことも無かった。

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ビキニカウルにセパハンとシングルシーター。それらが市街や郊外のだだっ広い道路をかっ飛ぶ光景は、公道レースのど真ん中に紛れ込んだのかと一瞬我が目を疑った。麦畑の真ん中を走る舗装路に残された、どこまでも続く真っ黒なブレーキ痕。その終着駅は麦畑だった(笑)。まさに見たもの全てにカルチャーショック!

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幸い父親もモーターサイクル好きだったので、例え不祥事をしでかしても「乗るな」なんていう、ヤボな事は言わなかった。それでも多少は他の事柄へ興味を持たせたかったのだろうが、僕の心は父親の想いとは裏腹に、真っ赤に燃える夏の太陽を凌ぐほどに燃え上がっていった。

それ以前のモーターサイクルへの思い出も多々ある。しかし、ヨーロッパで目にした夢のような出来事は、決してイリュージョンではなかった。あの夏のすべてが僕のモーターサイクルの原点となった。

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以来、子供の頃からレーサーを夢見て、速ければ良いとひたすらスロットルを開け続けた少年時代のCB550。トライアンフの2シリンダーの音色に近づこうと手に入れたTX650。初めてのブリティッシュクラシック、BSA シューティングスター441。60年代のダートトラッカーをイメージして、自らデザインした1967年型トライアンフ T120ボンネビル。タイムトンネル、LOCを駆け抜けた1964年式ノートン アトラスローボーイドミレーサー、小粋で生意気な749Rなど、様々なモーターサイクルと時間を共有してきた。

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あの時に観た原風景は、色褪せること無くいまなお活き続けている。

この最終稿が皆さんの目に届く頃、DAYTONAと共に50代最後のレースを思いっきり楽しんでいるだろう。

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…もちろん、来シーズンもね。

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