トライアンフ アメリカLT
- 掲載日/2016年06月23日
- 写真・文/田中 宏亮
取材協力/トライアンフ モーターサイクルズ ジャパン
モデル名そのままのイメージを
具現化したミドルクルーザー
2013年、アメリカ市場における販促拡大の急先鋒として生み出されたミドルクルーザー「アメリカ」。そのモデルにさまざまなツーリングパッケージを標準装備としたのが、今回紹介する「アメリカLT」だ。ロケットⅢ、サンダーバード、スピードマスターらとともにラインナップを充実させるクルーザー群のミドルモデルには、どんな楽しみ方が秘められているのだろう。空冷ボンネビルから受け継ぐ並列2気筒エンジンの仕上がり具合とともに、うちに秘めた魅力を解いていこう。
トライアンフ アメリカLT 特徴
ロングツーリングに最適な
充実装備のリアルクルーザー
排気量865cc / 空冷並列2気筒 DOHC 8バルブエンジンを搭載、そして車重は装備を含めて270kgとあるアメリカLT。ベースモデルであるアメリカが226kg、弟分にあたるスピードマスターが229kg(どちらも乾燥重量)とあるので、ウインドスクリーンやサドルバッグ、バックレストといった装備が重量アップに関与しているのは想像に難くない。むしろ、これらの装備を単体で買い揃えると30万円を軽く超えてしまう。105万円のアメリカに対してLTの販売価格は120万円と、その差はたったの15万円。最初からロングツーリングでの使用がメインと決まっている人から見れば、これほどお得なパッケージモデルはあるまい。
アップデートを繰り返して現在の姿に至るアメリカ。以前はフロント18 / リア15インチというホイールサイズだったのが、スピードマスターとの差別化からフロントを16インチ化。そのスタイルはアメリカLTにも受け継がれ、ポリッシュ仕様のキャストホイールがマッシブなタイヤをより強調し、足元のインパクトを強めている。41mm正立フロントフォークとカヤバ製リアサスペンションに支えられた鋼管製クレードルフレームを骨格に持つ同モデルはホイールベースが1,610mmと、アメリカンクルーザーらしいロー&ロングスタイルを地でいく仕様だ。元々メッキ仕様だった空冷ボンネビル譲りのバーチカルツインエンジンも、アメリカンテイストにぴったりマッチしている。そこに、容量19.5リットルのビッグタンクやプルバック型のハンドルバー、ステップボード&シーソーペダルという組み合わせ、バックレスト付きダブルシート、脱着可能なウインドスクリーン、レザー仕様のサドルバッグを兼ね備えたアメリカLTは、納車日から早速北海道まで走っていける最高のリアルクルーザーだと言えよう。
865ccという排気量は、アメリカというより日本向きとさえ思う。アメリカでクルーザーと言えば、軒並みリッター超えのビッグバイクばかりで、近年はますます大排気量化の傾向にある。一方日本では、リッターバイクへの憧れはありつつも、そのパワーがなければ北海道まで自走で行くのが困難かと言えば、決してそんなことはない。むしろビッグバイク特有の重量がかえって操作性を阻害することさえある。それを考えると、ツーリングパッケージモデルでありながらわずか270kgに抑えられており、必要にして十分なパワーを持つ味わい深い空冷バーチカルエンジンが搭載されているアメリカLTは、日本のライダー層や国土にマッチしているのでは? とも思う。もしかしたら、隠れた名車となる可能性を秘めているのかもしれない。
想像のなかで膨らむ魅力が、現実の世界ではどの程度のものか。早速試乗を行ってみた。
トライアンフ アメリカLT 試乗インプレッション
思っている以上にスポーティな
意外性が楽しいアメリカン
まず足つきだが、ベースモデルの「アメリカ」同様、身長174cmの筆者で膝にゆとりができるほどのポジションだ。スタンドの位置が見えづらいのが難点だが、気をつけていれば問題はない。ハンドルに手をかけて腰の力で車体を起こすと、「思っていた以上に軽いな」と思わず口からこぼれた。近しいタイプで言えば、ハーレー・スポーツスターのツーリング仕様モデル「XL1200T スーパーロー」で、車重も274kgとほぼ互角。しかし、このアメリカLTの方がボディサイズがやや大きく、まるでビッグクルーザーに跨っているように感じるほど。それでいて、690mmというシート高が生み出す足つきの良さと重心の低さが安定感をもたらし、見た目とは裏腹に軽快な取り回しを約束してくれる。
ポジションに関して最初に驚かされるのが、かなりライダー寄りに来ているプルバック型のハンドルバーだ。絞りも適度で、実際に手を添えてみると、肩より少し下にくるちょうど良い高さを保っており、なるほどクルーザー向けのベストポジションになるバーだと感じさせられた。もうひとつ好印象だったのがシートだ。いざ走り出し、シートに体を預けると適度な柔らかさがあって心地よい。真横からのスタイリング写真を見てもらえれば分かるが、ツインショック構造なのにシート下がぐっとコンパクトにまとめられているから、まるでリジッドフレームのようなシルエットを生み出せ、さらに厚みのあるダブルシートがすっぽりと収まるのだ。シルエットの美しさはもちろんのこと、座り心地に関しても言うことなし。その姿勢のまま足を前に置くと、ちょうどいい場所にステップボードが備わっているので、投げ出す姿勢にならず適度に踏ん張れるから、シート荷重がかかりすぎることはない。ロングツーリングで腰を痛める……といったことはまずないだろう。まるで日本人のサイズに合わせてしつらえたようなポジションに驚かされる。
フューエルインジェクション仕様の空冷バーチカルツインエンジンは、その重ったるさが味わいでもあるVツインエンジンと比べると、かなりシャープな味付けになっていた。信号待ちからのスタートダッシュで勢いよくスロットルをひねってみたら、思っていた以上にレスポンスが良くてちょっとびっくりしてしまった。車体が軽く、足まわりもサスペンションも申し分ない仕事をしてくれるから、街中でも軽快に走り抜けられる。ステップボードの位置も低すぎないので、かなり無理なバンクでもさせない限りは擦ってしまう心配もない。
フロントブレーキの性能の高さも特筆モノだ。シングルディスク仕様にもかかわらず、停車時にハンドブレーキを握り込むと、瞬時にストッピングパワーがかかり、やや前のめり気味になってしまうことも。これはリアにも同様のことが言えるが、ブレーキングのタイミングはオーナー自身が体で覚えるほかないだろう。ABS機能が備わっていないが、それに頼る乗り方をするとタイミングを見誤ったときに大変なことになるので、このブレーキを使いこなすのも乗り手の楽しみとしておきたい。
残念なのは、5速ミッションなところか。ハイウェイに乗って速度を上げていき、もう一歩とシーソーペダルを踏み込んだら、すでに最大まで上がっていて拍子抜けしてしまった。2000年初期に開発された空冷ボンネビル仕様のエンジンがベースになっているがゆえ……しかしながら、クルーザーというモデル特性を考えると、ここは今後の改善点として検討してほしいと思う。
ハイウェイにおける巡航速度は、時速80km~100kmといったところ。それ以上になると、ウインドスクリーン内での風の巻き込みが強くなってくるなどの弊害が起こった。ただ、そもそもスピードを楽しむことを目的としたバイクではない。改めて軽くクルージングを楽しみたい人向けのモデルなのだと感じさせられた。それに、適度なスピードで流す方がバーチカルツインエンジン特有のトルクを味わえるので、まさにクルーザーとしての楽しさを詰め込んだ一台と言えるのかもしれない。
そんなことを考えながらアメリカLTに乗っていると、なんだか無性に北海道ツーリングに行きたい気持ちになってしまった。そんな衝動を掻き立ててくれるアメリカLT、一度は試乗してみる価値があるモデルだと言えよう。
トライアンフ アメリカLT の詳細写真
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