
‘01年から発売が始まったボンネビルは、以後に登場するモダンクラシックシリーズの基盤を作ったモデルだ。車名が示すようにマシン全体のイメージは、’60年代に“世界最良のスポーツバイク”と呼ばれた T120ボンネビルの再現と言える雰囲気で、空冷並列2気筒エンジン+スチールダブルクレードルフレームという構成にも通ずるものがあるけれど、実際にはすべてが新設計で、現代の道路事情を見据えた作り込みが行われている。なお今回試乗する’11年度の特別カラー車は、’02年の T100(翌年からレギュラーモデル化)、’09年のボンネビル50th、’10年の SIXTYに次ぐ4番目の限定車。ただし過去の3作のようなシリアルナンバー入りプレートは設置されていない。
現代では6機種が存在するトライアンフのモダンクラシックの変遷と相違点は、門外漢には少々わかりづらい。このシリーズは全車がパワーユニットとフレームの基本を共有しているものの、エンジンのクランク位相角は、ボンネビル/SE/T100とスラクストンが360度で、スクランブラーとスピードマスターが270度。また、タイヤサイズは、ボンネビル/SEが前後17インチ、T100とスクランブラーが前19・後ろ17インチ、スラクストンが前18・後ろ17インチ、スピードマスターが前18・後ろ15インチを採用しているのだが、’09年以前のボンネビルの標準は前19・後ろ17インチだった。こうやって改めて記すと、ずいぶん細かな変更を行っているのだなと思えてくるが……。
伝統のブリティッシュハンドリングが最もわかりやすく堪能できるのは、当初のボンネビルとほぼ同じ構成を採用するT100だろう。もちろんスラクストンやスクランブラー、スピードマスターにも、他では味わえない魅力があるのだが、同社の王道と言うべきモデルは、やっぱりかつてのOHV時代と同様の360度クランクや前輪19インチを採用するT100だ。さらに言えば’11年度の限定車が採用するビンテージクリーム×チョコレートのような’60年代風のカラーリングが似合うという点でも、このモデルが最も優れた資質を持っているのではないだろうか。
“すごくしっかりしたバイクなんだけれど、味気や面白さがない”というのが、’01年にデビューしたボンネビルに乗った僕の率直な感想だった。その背景には、当時の僕が’76年型ボンネビルT140V(こちらは全体としてはあまりしっかりしていないものの、味気や面白さが満載だった)を愛用していたという事情がある気がするけれど、あの頃のトライアンフは“ボンネビル”という伝統の車名を使って失敗することを恐れたのだろうか、とりあえず無難にまとめた感があって、僕としてはいまひとつ好きになれなかったのである。その印象がガラリと変わったのは、確か’05年型に乗ったときだった。排気量が790 → 865ccに拡大され、タイヤの銘柄が代わり(同時にリアのみバイアス→ラジアル化)、ディメンションが見直された(キャスター/トレール/軸間距離が29度/117mm/1493mm→28度/110mm/1500mm)マイナーチェンジ後のボンネビルは、かつてのボンネビル、と言うより、BSAやノートンなどを含めた黄金時代のブリティッシュツインの後継と言いたくなる車両に変貌を遂げていたのだ。
もちろん、かつてのブリティッシュツインのようなやんちゃさや危うさはないものの、エンジンの鼓動感と瞬発力は“これぞパラレルツイン”と思えるほど明確になったし、タイヤから伝わる接地感のわかりやすさやコーナリングで感じる程よい手応えも、ストリートを楽しむスポーツバイクとしては文句の付けようがない出来の良さ。この変貌を体験した僕は、トライアンフというメーカーの懐の深さに感じ入ると同時に、こういった形で’60~80年代に消滅した英国車の血統が引き継がれたことが、なんだかとても嬉しく感じられたのだ。しかしその一方で、最近の僕が勝手に心配しているのはトライアンフ自身の方針である。前述したように、’10年からボンネビルの標準=注釈なしモデルは前後17インチとなり、同時に前後サスの見直しで車高が低くなったこの車両は、ユーザー層の拡大に貢献しているようではあるが、フロント19インチならではの大らかさと軽快感が味わえるT100を、派生機種のような扱いにしてしまうと、ユーザー側が混乱するのではないだろうか。もちろん、そのあたりの事情は、ディーラーがきちんと説明すればいいのだけれど。
さて、個人的な見解を書き連ねてしまったが、昔ながらの味わいと現代ならではのしっかり感を見事に両立したボンネビル T100は、誰にでも自信を持って薦められるモデルである。あえて難点を挙げるとすれば、同じようなクラシックテイストを持つカワサキ W800やモトグッツィ V7クラシックより、車格がやや大柄なことが挙げられるけれど、それらより明らかに車体の包容力は高いし、エンジンの回り方も上質。この乗り味は、パラレルツインの酸いと甘いを知り尽くしたトライアンフだからこそ、作れたものだと思う。
価格(消費税込み) = 128万1,000円
(標準カラー車は121万8,000円/126万円)
今年で10年目を迎えるボンネビル T100は、モダンクラシックシリーズの基盤を作ったモデル。さまざまな面で熟成・発展を遂げつつ、近年では往年のカラーを再現した限定車も登場している。