【トライアンフ デイトナ660 試乗記】日常で爽快な走りを楽しめるフルカウルスポーツだ
- 掲載日/2024年04月05日
- 取材協力/トライアンフ モーターサイクルズ ジャパン
写真/星野 耕作 取材・文/佐川 健太郎 衣装協力/KUSHITANI
デイトナ660 特徴
伝統の3気筒スポーツながら扱いやすさを重視
最初にデイトナの系譜について少しふれておきたい。DAYTONAの名は1966年デイトナ200マイルレースでの勝利を記念したもので、その後トライアンフにおけるスポーツモデルを象徴するネームになっている。近年では2006年に登場したデイトナ675が従来の4気筒スーパースポーツとは一線を画す3気筒エンジン搭載のミドルスーパースポーツとして一世を風靡。欧州の2輪誌が主催する世界最強のスーパースポーツを決める「スーパーテスト」において4年連続で「キング・オブ・スーパースポーツ」の称号を獲得、当時のWSS (スーパースポーツ世界選手権)で国産勢を凌ぐ成績を残すなど実力の高さを見せつけてきた。
その後、何回かのモデルチェンジを経て惜しまれつつも2016年に生産終了。デイトナのDNAは同系エンジンを搭載するスポーツネイキッドのストリートトリプルに受け継がれ、2017年には排気量を765ccに拡大した新世代となり、電子制御を投入しつつ年々改良を重ねてパフォーマンスを向上。2019年にはストリートトリプルRSの水冷3気筒765ccをベースにFIMロードレース世界選手権Moto2用エンジンを開発、現在に至るまで独占的サプライヤーとして供給している。
その流れで2019年に限定版の「デイトナ765 Moto2エディション」も発売されたが、量産タイプのフルカウルモデルとしては実に8年ぶりとなる待望のトライアンフ3気筒スポーツモデルが登場したのがデイトナ660である。
今までの経緯から相当アグレッシブなマシンをイメージしがちだが、デイトナ660はぐっと敷居を下げたフレンドリーな立ち位置と言える。エンジンはミドルネイキッドのトライデント660がベースの水冷並列3気筒から最高出力95ps、最大トルク69Nmを発揮。低中速トルクとスムーズな高回転を両立しつつ、トライデントよりも17%高いパワーと9%高いトルクを引き出している。6速ギアボックスとトルク&アシストクラッチによるスムーズな走りを実現。なお、クイックシフターはオプション設定となっている。
フレームはスチール鋼管製で旧デイトナ675やストリートトリプル系のアルミダイキャスト製とは異なるオーソドックスな作り。足まわりはショーワ製の倒立フォークとプリロード調整式モノショックを採用し快適な乗り心地を実現。ブレーキにはフロントにダブルディスクとラジアル4Pキャリパーを採用し、軽量な5本スポーク鋳造アルミホイールに最新スポーツラジアルタイヤのミシュラン「パワー6」を標準装着するなど足元も充実している。また、電子制御スロットルによる3つのライディングモード(スポーツ、ロード、レイン)とABS、切り替え式のトラクションコントロールを装備するなど、ストリートでスポーティな走りを楽しむには必要十分な機能が盛り込まれている。
デイトナ660 試乗インプレッション
フルカウルなのに快適、
サーキット入門用としても最適
久々に見るフルカウルのトライアンフに心が躍る。ぱっと見はまさしくデイトナそのもの。自分もかつてデイトナ675を所有した経験もあり個人的にも思い入れのあるシリーズだ。トライアンフ伝統の水冷並列3気筒は最高出力95psとスペック的には驚くほどではないが実際に走ると十分に速い。最大トルクの8割以上を3000rpm過ぎから発揮する低中速トルクにふった出力特性は明らかにストリート重視のセッティングで、スロットルを開ければどこからでも力強い加速が得られるのが気持ちいい。
エンジンのベースはトライデント660だが、マップの最適化とスロットルボディを1個から3個に増やしたことで、さらにリニアなレスポンスを引き出している。ビブラートがかかった官能的なトリプルサウンドも健在。英国車ならではの上品でスタイリッシュな雰囲気にもデイトナらしさが漂う。フルカウルスポーツとしては低めの810mmのシート高とスリムな車体で足着きも良好。同じくセパレートハンドルも高め、ステップは逆に低めに設定されるなど快適で親しみやすいライポジだ。
ショーワ製の前後サスペンションはしなやかな乗り心地で、調整機構こそ最小限ではあるがストリートでは十分なレベル。ラジアルタイプの4ピストンを備えたダブルディスクブレーキも扱いやすく効きも申し分ない。印象的だったのが標準装着されているミシュランの「パワー6」タイヤ。路面温度も低く雨天での試乗だったが、速度に関わらず接地感が分かりやすく安心してワインディングを楽しめた。車体の軽さとワイドバンドな出力特性、スチール鋼管フレームによる“たおやか”な乗り味がバランスして、常にバイクが手の内にある安心感が持てる。厳しいコンディションだからこそマシンの素性の良さも際立ったと思う。
また3種類のライディングモード(スポーツ、ロード、レイン)は走行中でも手元スイッチで簡単に変更でき、選択したモードによって出力特性も明確に変わるので実用的。もちろん、レインモードにすれば雨で滑りやすい路面でも早めにトラコンが介入してくれるので安心だ。ABSやスリッパークラッチなども含め日常の走りでは必要十分なセーフティデバイスが入っていると思う。
後日サーキットでも試乗する機会があったが、軽快なフットワークやしなやかでトルクフルな走りなど、全体的な走行フィールはしっかりとデイトナのDNAを受け継いでいた。それでいて、どこでも思い切りスロットルを開けられるのでストレスフリー。かつて鈴鹿4耐などのレースでも慣れ親しんだデイトナ675はもっとパワフルで過激だったが、一方ではライドモードやABS、トラコンなどの電子制御はなかった時代。そう考えるとデイトナ660はだいぶ乗りやすく安全になったと思う。ライポジも楽で扱いやすいので普段の街乗りからツーリングまで快適に使えそうだし、運動性能は高いのでスーパースポーツ入門用としてもベストな一台だと思う。
デイトナ660 詳細写真
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