トライアンフ デイトナ675R
- 掲載日/2012年08月16日
- 取材協力/トライアンフ モーターサイクルズ ジャパン
取材・文/佐川 健太郎 撮影/MOTOCOM 衣装協力/HYOD
「世界最強のスーパースポーツ」
名声をさらに高めることができるか
世界最強のスーパースポーツを決める「スーパーテスト」において、4年連続で「キング・オブ・スーパースポーツ」の称号を獲得するなど、バランスのとれたポテンシャルの高さでその名を轟かせるデイトナ675に、さらにスポーツ性能を高めた「R」バージョンが投入されたのが2011年のこと。前後に最新型のオーリンズ製サスペンション、レーシングタイプのブレンボ製ブレーキキャリパーを装備するなど、足回りを中心に戦闘力が高められているのが特徴である。一流のパーツを身に付けたデイトナは、果たしてどんな走りを見せてくれるのか。スタンダードとの明確な違いはあるのか、あらためて検証してみたい。
トライアンフ デイトナ675R 特徴
レーシングスペックの足で
戦闘力に磨きをかけた「R」
従来の直列4気筒エンジンを搭載するミドルスポーツ、デイトナ 600 の後継モデルとして登場したのが、2006年に登場したデイトナ 675 である。国産4メーカーが席巻する 600cc スーパースポーツとは異なる並列3気筒 675cc という独自のエンジンレイアウトゆえ、当時はちょっとエキセントリックな存在と見られていたが、世界中でそのパフォーマンスと味わい深い走りが評価されるようになり、その後、WSS (スーパースポーツ世界選手権)で国産勢を凌ぐ成績を残すなど、サーキットにおける実力の高さも見せつけてきた。リッタークラスの SS を持たない現行トライアンフのモデルラインナップの中にあって、デイトナ 675 はある意味でフラッグシップであり、英国製ブランドの名声を背負って立つ存在となっていると言えよう。
現行モデルは WSS 参戦で得たノウハウをフィードバックするかたちで、2009年にマイナーチェンジを実施。F.I. マップの変更や燃焼室形状、バルブの改良により、高回転化と 3ps のパワーアップを達成。レースキット同様のギアレシオが与えられた他、軽量ホイールや前後サスペンションに高速/低速2ウェイの圧側減衰力調整機構、モノブロックキャリパーなどで足回りが強化され、よりサーキット性能が高められている。
そして今回新たに投入された「R」は、さらに足回りのグレードアップを図ることで戦闘力を高めているのが特徴だ。前後サスペンションには元々、MotoGP マシン用に開発されたオーリンズ製43mm NIX30 フォークと TTX36 リアショックを装備( STD はカヤバ製)。フロントブレーキもブレンボ製( STD はニッシン製)となり、一体鋳造モノブロックタイプのラジアルマウントキャリパー&ラジアルマスターシリンダーが奢られるなど、レーシングマシンに匹敵する装備が与えられている。また、パフォーマンスエキゾーストやクイックシフター、ファクトリー仕様のキットパーツなど、レース参戦を前提としたアクセサリーの充実ぶりもポイントだ。
さらに、ひと目で「R」と分かる外観デザインも魅力。クリスタルホワイトの専用カラーで彩られたカウルやレッドカラーのサブフレーム、カーボンパーツを採用するなど、「R」に相応しいグレード感に仕上げられている。
トライアンフ デイトナ675R 試乗インプレッション
オーリンズは素晴らしいが
乗りこなすには腕がいる
2009年のマイナーチェンジでエンジンと足回りがアップグレードされたデイトナ 675 は、それだけでかなり戦闘力のあるマシンだった。私自身、初期型でレースをやっていた経験があるが、新型に試乗したときはその進化に驚いた記憶がある。3気筒らしい力強い中速トルクはそのままに、高回転化されたエンジンの伸びやかなパワー感はまるで4気筒エンジンのように思えたほど。初期型のやや荒削りな回転フィールとは打って変わって、滑らかに調教されたスロットルレスポンスにうっとり。これまたトリプル系ならではの憂いを含んだようなビブラートのかかったサウンドに酔いしれた。今回、その上級バージョンである「R」に乗れるということで、内心とても期待し、高揚した気分で試乗に臨んだ。
跨ってみると、シートが高い。スペック上では 830mm で、スタンダード(以下 STD )と同じはずなのだが、リアサスペンションが硬い感じで沈み込みが少ないのだ。デイトナ 675 はただでさえ、前傾がキツいモデルなのに、さらに前のめりになってしまう。走り出すとそれは顕著で、リアが突っ張ったまま常にフロントに荷重がかかった状態なので、ハンドリングが重く倒し込みのタイミングが掴みづらい。もともと欧米人向けのモデルということもあり、バネレートが高い上にプリロードも強めに設定されているようだ。このままでは気持ち良く乗れないと判断して、すぐさまサスセッティングすることに。
まずリアサスペンションから調整。プリロードを弱めることにしたが、フックレンチがかかりやすく、とても調整しやすい位置にある。そしてダンパー調整機構も圧側・伸び側ともにユニット上部にダイヤルがあり、指でくるくると回すだけで簡単に調整できる。これは驚きだ。さすがはオーリンズ、しかも最新型の TTX36 ! これならお世辞抜きで誰でもその場でサスセッティングできるはず。フロントも圧側・伸び側のアジャスターが左右のフォークトップに振り分けられたタイプなので非常にラク。STD のように圧側が下にあって、しかも低速と高速の2ウェイのアジャスターが左右それぞれにあり…。腰をかがめて四苦八苦していたことを考えると、ずいぶんと進化したものだ。人をラクにしてくれる、こうした技術革新は大いにウェルカムである。
何度か試走を繰り返し、リアサスペンションはプリロードを1回転半緩めて、ダンパーも圧側・伸び側とも3クリック程弱めた。フロント側は車高が低すぎるので、圧側ダンパーを2クリック程強めてコシ感を出し、逆に伸び側はフォークの戻りを速くしたいので2クリックほど弱めてみた。結果的に車体姿勢がフラットになり、前後の荷重バランスも改善。サスペンションの動きもスムーズになり、コーナー進入で自然なピッチングを作れるようになるなど、見違えるように走りやすくなった。これぞ、オーリンズのマジックである。ちゃんとセットを出してやれば、STD とは次元の違う走りで応えてくれる。スーパーコルサ SP の強力なグリップ性能のおかげもあるが、サスペンションの性能に任せてコーナーに飛び込んでいくような走りもできてしまう。あとは出口に向けてスロットルを開け続けるだけで、トリプル独特の「台形トルク」に乗せた息の長い加速を楽しみながら、豪快に立ち上がっていくのだ。
ただし “乗りこなす” のはけっして簡単ではない。軽量でかつ足回りのグレードが高いため、それなりのペースでしっかり荷重をかけて走ってやらないと、「R」本来の良さが出てこない。ブレンボ製モノブロックキャリパーも本物の迫力で、ラフに操作すると強烈すぎてヒヤッとするほど。それでいて、人指し指1本でフルブレーキングから旋回中の微妙な速度コントロールまでこなせるキャパシティがある。その意味で、「R」はやはり正真正銘のレーシングスペックなのだ。
ツーリングがてらワインディングをスポーティに走りたい向きには、STD のほうが気楽に付き合えるだろう。覚悟を決めて、自分でサスセッティングを試行錯誤しながら、奥深い走りを極めたいと思えるなら、あるいはサーキットメインの使い方を想定しているなら、ぜひ「R」にチャレンジしてみてほしい。きっと大いなる歓びとともに貴方の期待に応えてくれるはずだ。
トライアンフ デイトナ675R の詳細写真
SPECIFICATIONS –TRIUMPH DAYTONA675R
価格(消費税込み) = 154万3,500円
3気筒 675cc エンジンを搭載するトライアンフきってのスーパースポーツモデル。デイトナ675にオーリンズ製前後サスペンションやブレンボ製ブレーキなどハイグレードな足回りが与えられた上級バージョン。
- ■エンジン型式 = 水冷4ストローク DOHC並列3気筒
- ■総排気量 = 675cc
- ■ボア×ストローク = 74.0×52.3mm
- ■最高出力 = 125HP(92kW)/12,600rpm
- ■最大トルク = 72N・m/11,700rpm
- ■トランスミッション = 6速
- ■サイズ = 全長2,020×全幅710×全高1,105mm
- ■車両重量 = 185kg
- ■シート高 = 830mm
- ■ホイールベース = 1,395mm
- ■タンク容量 = 17.4リットル
- ■Fタイヤサイズ = 120/70-17
- ■Rタイヤサイズ = 180/55-17
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