Moto2エンジンの公式サプライヤーとなるトライアンフの先行開発テスト車をインプレ
- 掲載日/2018年03月12日
- 取材・文/佐川 健太郎 写真・動画/トライアンフ モーターサイクルズ ジャパン 衣装協力/HYOD
トライアンフが開発中の
Moto2エンジンを体験
既に各メディアで伝えられているとおり、トライアンフは2019年シーズンよりFIM世界ロードレース選手権シリーズ「Moto2」クラスに対しエンジン供給を開始する。そして今回、これまで断片的にしか情報が伝えられていなかったMoto2用エンジンを搭載したマシンが初公開され、幸運にもサーキットで試乗するチャンスを得ることができた。市販車ベースの3気筒エンジンは果たしてどんなポテンシャルを見せつけてくれたのか。モーターサイクルジャーナリストのケニー佐川が渾身のレポートをお届けする。
トライアンフ Moto2 プロトタイプ 特徴
ストリートRSをベースに
133psまでチューンナップ
遡ること昨年2017年6月、トライアンフが「Moto2」チャンピオンシップにおける2019年シーズン以降の独占的エンジンサプライヤーとなることを発表。業界を揺るがすニュースになったことは記憶に新しいところ。そして、9月には英国本社より開発責任者のスティーブ・サージェント氏を招いての記者発表が富士スピードウェイで行われた。トライアンフは、MotoGPの商業権を保有するドルナと契約を締結しており、新開発したエンジンを3年に渡り「Moto2」に供給することが決定している。
トライアンフが開発した「Moto2」用エンジンはDaytona 675Rから発展した新型ストリートトリプルRSが搭載する3気筒765ccエンジンがベース。これにレース専用チューンを施し、パワーとトルクの大幅な向上が図られている。具体的には改良型シリンダーヘッドやチタン製バルブおよび強化スプリング、慣性力を軽減するレース用オルタネーター、ハイレシオの1速ギア、レース専用スリッパークラッチ、新型サンプシステムなどを導入。また、ECUもマニエッティ・マレリ社との共同開発によるレース専用タイプに変更され、エンジン幅を低減する専用カバーが新たに採用されている。
その結果、最高出力133ps、最大トルク80Nmを実現。表面的にはこの数値は昨年の発表時点から変わっていないが、それでもベースとなったストリートトリプルRSのそれぞれ123ps/11,700rpm、77Nm/10,800rpmという数値に対しても大幅な性能アップが図られていることは一目瞭然だ。
トライアンフ Moto2 プロトタイプ 試乗インプレッション
攻めきれない口惜しさ
ただトリプルの本領は見えた!
今回試乗したのは、トライアンフが開発中のMoto2用エンジンを搭載したマシンで、先行開発テスト車の位置付けといっていいだろう。実際のところ、Moto2規定ではプロトタイプのシャーシを使うことが義務付けられているため、カレックス(ドイツ)やスッター(スイス)などのフレームビルダーが作るシャーシにこのエンジンを搭載したチームが大挙して参戦することになるはずだ。
ピットに佇む1台のマシン。暖気するアローのレーシングマフラーから零れるビブラートのかかった図太い排気音はレーサーそのものだ。事前情報があまりないシークレットな試乗会だったため、どんなマシンなのか、どんなメディアが参加するのかも知らされておらず不安もあったが、目の前に現れたのはかつて知ったるシルエット。そう、デイトナ675のシャーシにMoto2エンジンを搭載したマシンだった。そして、乗れるのは自分と英国人ジャーナリストを含めて数名のみ。なんとラッキーな、と思う気持ちと責任の重大さに身が震えた。
マシンは1台で周回は3ラップのみ、しかも初めてのコースというかなり厳しい条件での試乗体験となってしまったが、その中で感じたことを包み隠さずお伝えしたい。
まず見た目。シャーシはほぼデイトナ675のノーマルということで、車格や跨った感じもだいたい同じ。ライディングポジションはややハンドルクランプの位置が低く、逆チェンジのレーシングステップになっていることぐらいだ。ただ、足まわりはKテック製の前後サスペンションが装着されており、これがけっこう固めである感じ。また、厳ついステアリングダンパーがステムトップに装備され、手強さを予感させていた。ブレーキは前後ともノーマルのようだ。
さて、試乗開始。逆シフトを慎重に1速に入れてピットレーンからコースに向けて加速していくが、まずスロットルレスポンスの俊敏さ、そして回転上昇の速さに驚く。エンジン内部の抵抗要素をすべて取り去ったような、イナーシャーを微塵も感じない吹け上がり感はストリートモデルではけっして味わえないものだ。
スペックだけ見れば、たかが133psと思うかもしれないが、このレスポンスの鋭さがレーシングエンジンの証。故に悔しいがアクセルを開けるのを戸惑ってしまう。車重は明かされていないが、ノーマルのデイトナよりは明らかに軽く、ステアリングダンパーの効果もあってコーナーでの倒し込みもまた鋭い。車速が足りずについクリッピングに早く付き過ぎてしまうのだ。
というように、テスト車とはいえさすがはMoto2である。正直、持ち時間の中ではマシンに慣れるのに精いっぱいだった。ただ、そんな状況でも徐々にスロットルを開けていくと、600cc直4エンジンとはひと味異なる分厚いトルクで加速していくのが分かる。特に低中速コーナーからの立ち上がりでは、毎回フロントが浮き上がりそうな勢いがある。ストレートでの加速の伸びもまた軽やかで、流れる景色からその速さを実感できた。
少し残念だったのはシャーシだ。デイトナ675ベースということで、このエンジンのスペックに対してやや役不足といった感がないでもなかった。現役のMoto2マシンを見れば分かるが、かなり厳ついフレームとスイングアームが付いている。おそらくディメンションも市販車とはだいぶ異なるはずだ。
読者の関心の多くは、現行Moto2に使われている「CBR600RRベースのホンダ直4エンジンとどっちが速いか!?」ということだろう。残念ながらこの問いに対して、私は答えることができない。Moto2マシンに乗ったことがないからだ。ただ、600ccに対して765ccという圧倒的な排気量の差はけっして小さいものではないと思う、とだけ言っておこう。
我々の試乗が終わった後で、トライアンフのテストライダーが物凄い勢いでホームストレートをかっ飛んでいった。その咆哮を聞いていると再び胸が高鳴ってくる。2019シーズン開幕戦、この3気筒エンジンを搭載したMoto2マシンが一斉にスターティンググリッドから飛び出していく光景が目に浮かぶようだ。これはいよいよ待ち遠しい。
トライアンフ Moto2 プロトタイプ の詳細写真
SPECIFICATIONS – TRIUMPH Moto2 PROTOTYPE
価格(消費税込み) = 未定
※表示価格は2018年2月現在
2019年からMoto2エンジンの公式サプライヤーとなるトライアンフの先行開発テスト車。レース用にチューンされたストリートトリプル系の3気筒765ccエンジンをデイトナ675の車体に搭載する。
- ■エンジン型式 = 4ストローク 水冷並列3気筒DOHC4バルブ
- ■総排気量 = 765cc
- ■ボア×ストローク = 78×53.4mm
- ■最高出力 = 133ps
- ■最大トルク = 80Nm
- ■トランスミッション = 6速リターン
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