トライアンフのロケット3GTを試乗インプレ!唯一無二、他を寄せ付けない孤高の存在
- 掲載日/2021年11月29日
- 取材協力/トライアンフ モーターサイクルズ ジャパン
取材・文・写真/小松 男
モーターサイクル史において、後世まで語り継がれる強烈な存在
ゴットリーブ・ダイムラーが開発した内燃機関エンジンを搭載し、この世にモーターサイクルが誕生したのが1885年のこと。それから130年以上の年月が経ち、化石燃料や排気ガスによる環境問題の影響から、将来的に電気モーターの時代に移行してゆくことも囁かれるようになった。しかし人類は新しい生活を求める一方で深層心理的に大排気量、大出力を欲しているのではないかと私は考えている。
市販量産モーターサイクル最大排気量を誇るロケット3、その初代モデルが登場したのは2004年のこと。それは2300㏄もの巨大排気量エンジンを採用し、未曾有のパフォーマンスで世界中のライダーを驚かせた。その後2017年に一度は生産終了となっていたロケット3だったが、2019年に新設計エンジンを搭載した2代目モデルが登場し復活を遂げた。強烈なパフォーマンスにさらに磨きをかけたロケット3、今回はツーリング志向を強めたロケット3GTにスポットをあてる。
※初代モデルはロケットIII表記が正しいが、この項ではロケット3に統一している。
ロケット 3 GT 特徴
”遊び”ではなく、本気で超真面目クールでワイルドなキャラクター
先日、他メーカーの車両だったが、大型クルーザーの撮影を行っていた時に、通行人から「このバイクの排気量はいくつか?」と声を掛けられることがあった。そのようなことはこれまでバイクメディアに携わってきて多く経験しており、別に驚くようなことでも無いのであるが、やはり人々はより大きくて強いモノに対し、生理的に憧れを抱いているのだと思う。現在ハーレーダビッドソンのメインエンジンとなっているミルウォーキーエイト114エンジンの排気量は1868ccVツイン、昨年BMWモトラッドからリリースされたR18は1801ccボクサーツインを採用し注目を浴びた。日本メーカー勢で挙げるとゴールドウイングが1833㏄水平対向6気筒を搭載。どれも巨大な心臓部でキャラクターが引き立っているモデルばかりだ。がしかし、今回取り上げるトライアンフ・ロケット3GTは、それらのモデルがイージーに思えるほど別次元にあった。
惜しまれつつも初代ロケット3がラインナップから外れたのは2017年のこと。後継モデルが発表されないまま生産を終了したこともあり、一代限りだったかと思われていたが、それから2年後の2019年初頭にトライアンフはロケットTFCというモデルを発表することになる。それはトライアンフ・ファクトリー・カスタムという特別限定仕様だったのだが、誰の目にも新型ロケット3をイメージさせたものであり、約半年後にやはりといった感じで二代目ロケット3がリリースされたのだった。
そもそも初代ロケット3から特殊とも言えるモデルであり、生産販売台数は大きなものではなかった。それを改めて新規開発し新型モデルを投入することは、企業の力が無くては成しえることができないものであるし、やはり量産市販バイク最大排気量という称号はトライアンフ・ロケット3にこそふさわしいと多くの人々が考え求めていたのだ。
ロケット 3 GT 試乗インプレッション
あらゆる回転域で異次元乗って知るべき、別世界
様々な大排気量モデルに触れる機会があるが、その中でもトライアンフ・ロケット3GTは巨大だ。フルドレッサーモデルのように、フロントカウル、トップケース、サイドケースが備わっているわけでもないのだが、シッティングポイントやハンドルポジションなどが大柄ということもあり車両を起こすだけでも最初は気を使った。
エンジンを始動すると何とも形容しがたいアイドリングサウンドが響く。まずこの音がとても心地良い。排気量2458ccのエンジンはトライアンフが得意とする直列3気筒なのだが、他のモデルと違い縦置きとされている。よって、スロットルをあおると車体が横に押し倒されるようなトルクリアクションが発生する。ギアを1速に入れてクラッチを繋ぐと、何もせずとも車体を前へと押し出す。時速20キロ少々の速度なのだが、そのままセカンドに入れても十分に走れる。超ド級トルクエンジン恐るべしと、スロットルを操ることもなく感じられるのだ。初代ロケット3と比べて車重は40キロ程の軽量化を実現しており、その影響はハンドリングに如実に表れている。初代モデルでも想像以上に”走るバイク”と感じていたが、それに輪をかけてスムーズな走りを楽しめるキャラクターになっている。フロント150/80R17、リア240/50R16サイズのタイヤは、乗る前はその太さがハンドリングをネガティブにしているのではないかと考えていたが、強大なパワーとトルク、そして車重を受け止めるためのサイズであることが実際に走らせることで分かった。
そしてサスペンションもトラベル量が少なく、加速時に段差があると飛ばされそうになることもあったが、むしろあの場面でトラベル量が多いとその後の挙動を収集することが難しくなってしまう。ブレーキの効きやタッチは良いが、ゆっくり走らせているつもりでもスピードは出てしまっていることや車重をあらかじめ念頭に置き、余裕を持った制動距離を確保して走らせることがベターだ。つまり何を伝えたいかというと、普通に乗ることもできるのだが、やはりクセは非常に強いということだ。
ただそのクセをまったく忘れさせてくれるほどにトルク、そしてパワーが強烈だ。先に述べたように1000回転少々のアイドリングからレッドゾーンまで、どこまでも異次元の力強さを感じられる。まったく他のバイクとは違う領域にロケット3GTのライディングプレジャーはあるのだ。
1週間ロケット3GTを借用し、毎日、普段通りに触れてみた。それはそもそもこれほど大きく力を持ったモデルであると、日常的に使うことは難しいのではないかと思っていたからだ。しかしその心配は大きな間違えだった。ビッグネイキッドモデル同様の使い方ができてしまうのだ。もちろん手に負えないパワーがあるので、その点には気を使わなくてはならないが、むしろそれこそが魅力であり、いかなるステージでも、右手の操作一つでワープ移動できてしまう。ステップがフォワードポジションにセットされているので、楽なライディングポジションなのだが、小柄な体格のライダーではフィット感が薄いと思われる。その点、実車に一度跨るなどし確かめて欲しいものなのだが、今回のテストを通じて私はロケット3GTを所有してみたいものだと思った。
アメリカにシボレーのV8スモールブロックエンジンを搭載するボスホスというバイクブランドがあり、それこそ真の最大排気量だと意見する人もいるが、以前乗った感触では、あれを毎日通勤通学で使用するのは少々躊躇する(それも1週間単位で借りれば違う気持ちになるかもしれないが)。一方フルカウル、フルケースのフルドレッサーモデルだと、どうしてもホリデーツーリングという使い方になってしまいがちだ。その点ロケット3GTは、毎日ガンガン乗り回して、さらにロングツーリングも快適にこなせる素質があるのだ。現行ロケット3には今回テストしたGT以外に、ハンドルやステップ位置をはじめ装備が異なるロケット3Rというモデルもある。そちらも機会があれば乗ってみたいと思う。
ロケット 3 GT 詳細写真
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