【トライアンフ 新型スクランブラー1200X/XE 試乗記】大排気量バーチカルツインの豪快な走り、オンもオフも得意な“足長ネオクラシック”だ
- 掲載日/2024年02月08日
- 取材協力/トライアンフ モーターサイクルズ ジャパン
写真/星野 耕作 取材・文/佐川 健太郎 衣装協力/KUSHITANI
スクランブラーの歴史はトライアンフから始まった
スクランブラーの起源は1950年代に遡る。未だオフロードバイクという明確なカテゴリーがない時代、既存のバイクでなんとか不整地を走れるよう改造を施したことが原点。アップマフラーなどで車高を稼ぎつつブロックタイヤで走破性を高めているのが特徴だ。その後、T120TT や映画『大脱走』で有名になった TR6トロフィーなどがデビュー。トライアンフはスクランブラーを最初に市販化したメーカーとなった。
時を経て蘇った新生トライアンフに新たにその名が加わったのは、2006年登場のスクランブラー900から。エンジンは他のモダンクラシック同様の空冷並列2気筒でも、スクランブラーだけは唯一不等間隔爆発270度クランクを搭載(他は360クランク)しパルス感を強調。その後、2018年にデビューした新型スクランブラー1200シリーズは水冷化された新型ボンネビルT120系エンジンを搭載し、クラシカルな風貌を纏った本格派デュアルパーパスモデルとして登場した。英国スパイアクション映画の金字塔、007シリーズ最新作『ノー・タイム・トゥ・ダイ』では石垣の階段を駆け上る大ジャンプでスクリーンの前の観客を魅了したのは記憶に新しいところだ。
スクランブラー1200X / XE 特徴
ワイドトルク化と足まわりを強化し電制も進化
2024年モデルの新型「スクランブラー1200」シリーズのトピックは新たに「X」モデルが加わったこと。コスパの高いスタンダードモデルの位置づけだ。ボンネビル T120系のトルクフルな水冷並列2気筒1200ccエンジンやオフロード走行に対応する 21 インチフロントホイールといった基本構成は継承しつつ、サスペンションは新型マルゾッキ製とするなど足まわりを強化。一方でシート高を820mmに下げて足着き性を高めるなど初心者ライダーにも間口を広げている。また、新たに最適化したコーナリング ABS、切り替え可能なコーナリング TC など装備し安全性を高めているのもポイントだ。
一方の「XE」はワイドハンドルに長い足が与えられるなどオフロード性能を高めた上級バージョン。ブレンボ製最新ラジアルモノブロックキャリパー「Stylema」とφ 320mm ツインフローティングディスクを採用し強力な制動力を確保。前後250mmのロングストロークを持つマルゾッキ製の倒立フォークとリザーバー付きツインショックの新型サスペンションを前後に採用するなど戦闘力をアップさせている。
伝統の並列2気筒エンジンは最高出力こそ90psと従来と変わらないものの、「X」同様シリンダーヘッドの吸排気ポートの見直しにより高回転域まで幅広いトルクを実現。 スリムライン LED ウインカーやコンパクトな LED テールライトなど細部もリファインされるなどディテールの質感も高められている。
スクランブラー1200X / XE 試乗インプレッション
ツーリング主体でたまに林道なら「X」
オフロードで本格的に遊ぶなら「XE」
スタンダード版の「X」はT120系の1200ccバーチカルツインの分厚いトルクと弾ける鼓動感が印象的。アクセルを開けると一瞬柔らかく反応してからズドンと加速する。鋭すぎないのでアクセルを開けやすい。270度クランクの不等間隔のパルスは縦2本出しマフラーが奏でる乾いたサウンドでさらに強調され、図太いトルクに乗ってぐんぐん加速していく。国産4気筒やトライアンフの3気筒とも異なる重厚な回転フィールが楽しい。
フロント21インチの大径ホイールの穏やかなハンドリングが特徴。通常の17インチに比べるとやはり重いが、操舵レスポンスがゆったりしていてツーリングではそのまったり感がかえって気持ちいい。ちょっと荒れたアスファルトでも動じない安定感があるので疲れにくく、前後170mmのストロークを持つ長い足が路面を舐めてくれるので安心感がある。あまりスクランブラーを意識せずに走れる“足長ネオクラシック”という感じだ。ブレーキもダブルディスクで必要十分な制動力。 カチッと効くわけではないが扱いやすいフィーリングだ。そして、なんといってもシートが低いのが魅力。標準シート高は820mmだが前後サスペンションともよく動くので足着きはとても良い。
もう一方の「XE」はオフロードで乗らなければもったいないと思える性能だ。以前スクランブラー1200の発表会がロンドンで開催されたとき、トライアンフ本社開発責任者のスティーブ・サージェント氏に「タイガー1200とどちらがオフロード性能は高いのか?」と尋ねたことがある。「得意なシーンは異なるが互角と言っていいだろう」と言っていた。実際、今回本格的なダートで試乗してみて分かったが、どっしりとした重量感と1555mmのロングホイールベースはまったりとした挙動を生み、たとえ後輪がスライドしたときも滑り出しが穏やか。ワイドなハンドルバーとも相まってバランスを取りやすかった。
また前後250mmの超ロングストロークを持つ前後サスペンションはゴロゴロと石が転がるガレ場でも普通に走れてしまう。クラシカルなスタイルだが見た目に依らず高いオフロード性能に感心した。今回新たにコーナリング対応のABSとトラコンが装備されたことも安心感に大きくひと役買っている。なんといっても1200ccの大型バイクだ。特にグリップが不安定な砂利道での減速やコーナリングではライダーのミスをかなりカバーしてくれるはずだ。さらに急斜面を駆け登ったり、豪快にテールスライドを楽しみたい場合は、電子制御の介入をオフにするオフロードプロモードがおすすめだ。
スタンダード仕様の「X」から乗り換えると「XE」はひと回り大柄に思えるし、シートも高いので気軽さはなくなるだろう。その辺りは走破性とトレードオフの関係なので割り切りは必要だ。普段は快適なツーリングを楽しみつつ、たまに林道に入りたいなら「X」がおすすめ。スキルを磨いてオフロードで本格的に遊びたいなら「XE」がおすすめだ。
スクランブラー1200X / XE 詳細写真
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