2023年モデルのトライアンフ スクランブラー900を試乗インプレッション!所有欲を満たすビンテージトレール
- 掲載日/2022年09月28日
- 取材協力/トライアンフ モーターサイクルズ ジャパン 取材・文・写真/小松 男
トライアンフ史を語るうえで外すことのできない1台
トライアンフのモダンクラシックセグメントにおいて、オフロードを連想させるモデル、スクランブラー900。その歴史を紐解いてゆくと、1950年代に一世を風靡したTRシリーズまで遡ることになる。1948年に開催されたISDT(インターナショナル・シックス・デイズ・エンデューロ)において、マン島TTレーサーをオフロード仕様にカスタムした車両で制したトライアンフは、それを元にTR5トロフィーを1951年に誕生させる。これは北米マーケットをはじめ世界各国で人気を博した他、より性能が引き上げられた後継モデルであるTR6トロフィーへとバトンタッチをしつつダートトラックレースなどでも大活躍した。
1970~80年代にかけての日本車台頭により、トライアンフは窮地に立たされることとなるが、その後ヒンクレーに本拠地を移し、復活ののろしを挙げることとなる。トリプルエンジンとバーチカルツインエンジンを2本柱としモジュラーコンセプトを掲げ、数々のヒット作を生み出していく中で、2006年に往年の名機であるTRを彷彿とするニューモデル、スクランブラーが登場することとなった。今回はその系譜を受け継ぐ最新モデル、スクランブラー900を紹介して行きたいと思う。
トライアンフ スクランブラー900 特徴
ストリートスクランブラーからスクランブラー900へと名称を変更
2006年に登場したスクランブラーは、2008年にはインジェクション化が施され、その後も小変更を受けていったが一度姿を消し、2017年に水冷エンジンが搭載され、再登場することとなった。エントリーモデルにあたる排気量の小さいストリートスクランブラーと、ビッグツインのダイナミックな走りを楽しめるスクランブラー1200という2枚看板が用意され、前者のストリートスクランブラーが2023年モデルからスクランブラー900と名称が変更され先だって登場した。
そもそも、2000年代のモダンクラシックシリーズを振り返ってみると、同じバーチカルツインエンジンを搭載していながらもボンネビル系は360度クランクだったのに対し、スクランブラーは悪路で効率的なトラクションを得るために270度位相クランクを採用していたのだが、現在はバーチカルツインエンジンモデルすべてが270度位相クランクとなっている。
このインプレ企画の前回でボンネビルT100のインプレッションを行っているのだが、その感触がとても良かった。それと比べてスクランブラー900はどのように感じられるのかというポイントも含めながら、実車に触れていきたいと思う。
トライアンフ スクランブラー900 試乗インプレッション
フィーリングを大切にし、カッチリ、シッカリとした作り込み
2006年の登場時にトライアンフ スクランブラーに乗った時の印象を今でも忘れていない。ボンネビルよりも鼓動感があり、アップライトなポジションからストリートユースにも適していると思ったものだが、当時はすでに2000年代に入っていたものの、今思い返せばそれから15年以上もの時間が経過している。
ボンネビルモデルが360度クランクの同爆だったのに対し、270度位相クランクを採用していたために、キャラクターが明確に差別化されていたこともあると考えている。その後インジェクション、水冷エンジンと歴代スクランブラーに触れてきているが、昨年登場したユーロ5規制に対応した現行モデルは今回が初である。
スタイリングこそ”ソレ(トライアンフのスクランブラーらしさ)”をずっと守り続けているために、目新しさは感じられない。ただ、その点に関してはむしろ評価するに値すると感じている。未来を感じさせる新しいモノを模索し続けることも良いが、すでに人間の遺伝子的な記憶に刻まれているカタチを無理に変更させなくてもよいのである。
そのことはすでに、メルセデスベンツのゲレンデヴァーゲンであったり、BMWが受け継いだミニの存在からも語ることができるのだが(バイクメディアであるため、あえてクルマでの例えとさせてください)、トライアンフ スクランブラーというモデルも、すでに完成したデザインでありアイコニックな存在なのである。
イグニッションをオンにしてセルボタンを押すと、軽いクランキングでエンジンは目を覚ます。始動直後こそ、ややアイドリング回転数が高めではあるが、まもなく1000回転からそれを下回る回転数で落ち着く。ドッドッドッドッという鼓動感が体に伝わってくるのが心地よい。
ニュートラルから1速に入れるためクラッチレバーを握ると、その感触の軽いタッチに現代のバイクだと思わざるを得ない。どれだけメンテナンスが行き届いていたとしても、旧車の場合この軽い感触はなかなか出せない。そう考えながら走り出す。
高い位置にセットされたアップマフラーは、ヒートガードが備わっているにも関わらず、内ももに熱を伝えてくるため、ある程度しっかりした装具を纏うことを要求してくるが、ライディング中は常に秀逸とも言えるエキゾーストノート、つまりエンジン排気音を耳近くまで送り届けてくれることを考えると、それもまた致し方なしと思える。
現行モデルでは最高出力65馬力を7250回転で、最大トルク80Nmを3250回転で発生させるようパワーアップチューニングが施されているのだが、扱いにくさはなく、むしろ低回転域では若干ダルな印象を受けるほどだ。ただそれも決して遅いというわけではなく、上手くヴィンテージテイストを表現しているという感覚だ。
2000~3000回転でのトルクの出方が気持ち良いため、ついついその回転域を使ってしまいがちだが、5000~6000回転に引っ張れば(最高出力を発生する7000回転以上回さずとも十分)、笑いが止まらないほどの快活なエンジンフィールを楽しむことができる。
フロント19インチ、リア17インチのタイヤセットは私の好むところなのだが、サスペンション長やライディングポジションの関係からか、想像してい程のナチュラルなコーナーリングプレジャーは感じられない。ただハンドルを使い車体を振り回して押さえつけるような乗り方は非常に楽しい。
オフロードに持ち込んだとしても、サスペンションストロークなどの関係からハードな走りは求めない方が良いだろう。あくまでプレイバイクという面で突き詰められた設定だと思うが、それがむしろキャラクターとして秀でた部分であり、ストリートというステージにおいては我が道を突き進むことができる。
オーソドックスなスタイリングであり ヘッドライトまでも暖色系が使われているというこだわり、それでいながら現在の加工技術を惜しみなく注ぎ込んだスクランブラー900は、オーナーを幸せな気持ちにさせてくれ、飽きることなく長く付き合うことができる一台になることだろう。
トライアンフ スクランブラー900 詳細写真
関連する記事
-
試乗インプレッション
トライアンフ ストリートスクランブラー