トライアンフ ストリートトリプル 85
- 掲載日/2013年05月09日
- 取材協力/トライアンフ モーターサイクルズ ジャパン
取材・文/佐川 健太郎 写真・動画/MOTOCOM 衣装協力/HYOD
世界的ベストセラーの3気筒ロードスター
その最新型はどう進化したのか
2007年に『デイトナ675』のネイキッド版として登場した『ストリートトリプル』は、扱いやすいパワーと車格、デイトナ譲りの軽快なハンドリングにより、世界で好評を博したモデルである。その最新モデルが『ストリートトリプル 85』として登場した。“85”のネーミングは、日本仕様の最高出力が85psに設定されていることに由来している。従来型に比べると、一見ディチューンされていると見なされてしまいがちだが、実際はどうなのか。シャーシを一新してハンドリングはどう変化したのかなど気になる部分は多い。トライアンフ3気筒シリーズのベストセラーモデル、その進化をとくと味わってみたい。
トライアンフ ストリートトリプル 85 特徴
軽量化とマスの集中化に加え
ディメンションを大幅に進化
発売から6年目にして初となるフルモデルチェンジを行ったストリートトリプル。デザインを一新、シャーシを大幅に見直すとともに、エンジンも従来型をベースに改良が加えられなど、完全新設計のマシンと言ってもいいだろう。
日本仕様は排ガス規制などへの対応などから、最高出力を85ps/10,000rpm(従来型は106ps/11,700rpm)に抑えられているが、90万円を切る戦略プライスも含めて、より幅広いユーザー層に受け入れられる敷居を下げた設定になっているのが特徴だ。
水冷並列3気筒DOHC4バルブ、排気量675ccのエンジンは低中速重視のチューニングを施すとともに、1速のギア比を高めることで、よりスムーズな2速へのシフトを実現。F.I.システムの改良により、全域での扱いやすさと燃費向上を果たしている。メーカーの資料によると、街乗りでは最大30%の燃費向上が伝えられている。
新設計のアルミ製ツインスパーフレームは、構成パーツを従来の11個から8個とすることで溶接箇所を減らして軽量化を進め、新設計の高圧鋳造リアサブフレームとボルト4本で結合する構造として、リアセクションのスリム化を実現している。見た目ではなかなか分かりにくいが、実は車体のディメンションもキャスター角を24.1度(従来は24.3度)と立てて、トレールを99.6mm(同95.3mm)に延長。前後分布荷重も今回、52:48(同49:51)とフロント寄りとすることで、よりシャープでスポーティなハンドリングに仕上げている点も見逃せない。スイングアームやホイール、ブレーキキャリパーなどバネ下の軽量化とともに、新設計の軽量ステンレス製エキゾーストなどの採用により、従来比6kg減の183kgを実現。さらにダウンタイプのマフラーによりマスの集中化を促進することで、ハンドリングに磨きをかけている。ハンドル切れ角は従来の28度から31度へと増え、取り回し動作も向上した。
足まわりには、フロントにKYB製φ41mm倒立フォークとφ310mmダブルディスク、ニッシン製片押し2ピストンキャリパーが装備され、今回から切り換え可能なABSを標準装備することで、より安定した走りとセーフティを手に入れている。
その他にも、エンジンイモビライザーやシート下にU字ロック収納スペースを確保し、セキュリティ機能もアップ。タイヤ空気圧モニタリングシステムやスタイリッシュな外装パーツキットなど、純正アクセサリー類の充実も魅力である。
トライアンフ ストリートトリプル 85 試乗インプレッション
熟成されたハンドリングと
使い切れるパワーが楽しい
跨った瞬間、「これは馴染みやすいぞ!」と心の中でつぶやいた。以前にも書いたと思うが、相性のいいバイクというのは跨った瞬間に分かるものだ。それは重量バランスやシートの高さ、サスペンションの硬さなどから感じる。その点で、新型ストリートトリプルは実にすんなりと心に入り込んできた。体重をかけるとスッと沈み込むサスペンションの初期作動、わずかに前傾しながら自然に手を伸ばしたところにあるハンドル、高すぎず低すぎないステップ位置など、快適な中にもスポーツマインドを感じさせるライディングポジションだ。スタイリングもより現代的に洗練され、ボディラインもシャープに鍛え直された。マイナーチェンジで“ツリ目”になった従来型は、正直なところ、そこだけ取ってつけた感もあったが、新型では全体とのバランスもいい感じだ。
エンジンをかけると聞き覚えのある独特の3気筒サウンドが耳に響く。排気量1,050ccのスピードトリプルのそれに比べると、675ccはやや軽めで高い音域。澄んだ空気を思わせる音の広がりが実に心地よい。走り出しのクラッチのつながりもスムーズで、極低速のトルクもまずまず。スロットルを徐々に開けていくと、4輪スポーツカーのような官能的なエキゾーストノートを轟かせて加速していく。さらに速度を上げていくと、排気音とは別にエアクリーナーボックス辺りから“キーン”という高周波音がかすかに聞こえてくる。これがまたジェット機のようで気持ち良い。今回、吸気システムを改良してサウンドチューニングしたという、そのこだわりの成果は十分伝わってくる。
ユーザーの関心事はパワーだろう。従来型を知っている人からすると、最高出力85ps/10,000rpmと聞くと、どうしても残念感が漂うのは仕方ないが、実際に乗ってみれば印象はだいぶ変わるはずだ。と言うのも、街乗りからツーリングを含めて実際に使う回転域はだいたい4,000~8,000rpm辺りのはずで、実はそのレンジが一番美味しいからだ。もともと超フラットトルクの出力特性を持つトライアンフ3気筒エンジンの場合、実用域でもすでに十分なトルクが出ている。もちろん、サーキット走行などでタイムを狙おうとすればピークパワーは欲しくなるが、このマシンの生存領域である“ストリート”であれば不自由はないと思う。逆に、使い切れるパワー感、スロットルを開け切れる楽しさのほうが勝っている。実際に登りのワインディングを含めていろいろな場所を走ってみたが、リッタースポーツに引き離される気はしなかった。スロットルひとつでフロントアップに持ちこめる、従来型の弾けるようなトルクも魅力ではあるが、逆に言えば、スロットルのツキが鋭敏すぎてビギナーには難しい部分もあった。それが新型では、出力特性そのものも穏やかになり、きれいに角がとれて開けやすくなった。扱いやすい分、上手く走れるというメリットもあるのだ。
もっとも気に入ったのはハンドリング。従来型はパワーに対して足まわりが負けている感じがして、コーナー脱出でスロットルを開けていったときなど、リアサスペンションの動きにやや頼りなさを感じたものだが、新型では前後サスペンションにも落ち着きが出てしっとりとしたハンドリングになった。
特に素晴らしいのはフロントの接地感。車体を傾けると即座にステアリングが反応して、フロントタイヤの手応えを感じつつ安心して倒し込んでいける。軽快ではあるが安定感もある、ほど良い粘りをともなったハンドリングとでも言うべきか。従来型が“パタッ”と倒れ込む感じとすると、新型は“ジワッ”とくる。その味付けが絶妙なのだ。ディメンション的にもキャスターを立てつつトレールも確保し、フロント荷重を増やしながらダウンタイプマフラーでマスの集中化を図るなど、まさに最近のスポーツモデルの定石とも言える作り込みだ。もちろん、OEタイヤのピレリ・ディアブロロッソのキャラクターも影響していると思うが、それを加味してもディメンションの進化は大きい。
シフトタッチもより緻密になり、ミッションも1速をより高く、6速をより低く設定したクロスレシオに見直されているため、ギアチェンジもよりスムーズに。ブレーキのタッチはマイルドで効き具合も標準的。この車格とパワーなら十分なレベルだ。今回からオン/オフ切り換えタイプのABSが標準装備され、セーフティマージンが増えたことも嬉しい。
そしてもうひとつ。ステアリングアングルが増えたことを高く評価したい。たった3度(片側28度から31度)だが、Uターンが格段にやりやすくなった。ハンドル切れ角については以前、英国本社の開発責任者に直々に要望したこともある改善点だったので嬉しい限りだ。
これだけの美点を備えつつ90万円を切る価格。高価格高性能ばかりが褒められたものではないだろう。その意味でも、実に良いモノを作ってくれたなと素直に思う。
トライアンフ ストリートトリプル 85 の詳細写真
SPECIFICATIONS –TRIUMPH STREET TRIPLE 85
価格(消費税込み) = 89万190円
スピードトリプルのスタイリングとデイトナ675の俊敏な走りを融合させたライトウェイト・ロードスター。新型は85psの扱いやすいパワーと90万円を切るリーズナブルなプライスが魅力だ。
- ■エンジン型式 = 水冷4ストローク並列3気筒DOHC4バルブ
- ■総排気量 = 675cc
- ■ボア×ストローク = 74.0×52.3mm
- ■最高出力 = 63kW(85PS)/10,000rpm
- ■最大トルク = 60N・m/8,250rpm
- ■トランスミッション = 6速
- ■サイズ = 全長2,055×全幅740×全高1,060mm
- ■車両重量 = 182kg
- ■シート高 = 800mm
- ■ホイールベース = 1,410mm
- ■タンク容量 = 17.4リットル
- ■Fタイヤサイズ = 120/70-17
- ■Rタイヤサイズ = 180/55-17
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