ローシートバージョンのトライアンフ ストリートトリプルR Lowが登場
- 掲載日/2017年11月01日
- 取材・文/佐川 健太郎 写真・動画/山家 健一 衣装協力/HYOD
取材協力/トライアンフ モーターサイクルズ ジャパン
最新型3気筒ロードスターに
満を持してローシート仕様を投入
ストリートトリプルは2007年にデビュー以来、デイトナ675ベースの強力な3気筒エンジンと優れたシャーシ、スピードトリプル譲りのアグレッシブな外観により、累計5万台以上をセールスしてきたトライアンフの看板モデルである。ストリートでの軽快なフットワークとサーキットでも通用する運動性能を兼ね備えたミドルクラスのスポーツネイキッドモデルとして世界中で人気を博してきた。2017年には排気量を765ccに拡大し、電子制御テクノロジーを投入した完全新設計のニューモデルとなった。「S」、「R」、「RS」の3バージョンが設定されたが、その中で国内未投入だった「R」がローシート仕様の「R Low」として登場した。今回はサーキット試乗会でその走りを検証したい。
動画『やさしいバイク解説:TRIUMPH Street Triple R Low トライアンフ ストリートトリプルR Low』はコチラ
トライアンフ ストリートトリプル R Low 特徴
前後サスペンションを専用化し
車体トータルでローダウン化
新型ストリートトリプルには大きく分けて3つのグレードがある。「RS」がサーキット走行も楽しめる最強バージョン、「R」がワインディングを楽しむのにベストな仕様、「S」が街乗りからツーリングまでこなすオールラウンダーといった位置付け。そして、今回試乗した「R Low」はRのシート高を45mm下げた仕様となっている。
新型エンジンはデイトナ675系の水冷並列3気筒DOHC4バルブをベースに、ボアとストロークをそれぞれ拡大することで排気量を90ccアップした765ccで、クランクやピストン、シリンダーなどを含め80点以上のパーツが新作されている。これにより、最上級の「RS」では従来比で16%上回る123ps/12,000rpmのピークパワーを獲得。ミドルグレードの「R Low」も118psに高められている。また、1速、2速のギアレシオ変更により加速力を向上し、新設計のスリップアシストクラッチにより操作性もアップ。アルミダイキャスト製フレームも見直され、スイングアームもガルウィングタイプに変更されるなど剛性バランスの最適化によりハンドリングも磨かれた。また、3タイプとも車重は従来型より軽い166kgに仕上げられている点も見逃せない。
さて、「R」と「R Low」で異なるのが足まわりだ。双方とも前後サスペンションはショーワ製で、φ41mmビッグピストン倒立フロントフォークと別体式リザーバータンク付きモノショックの組み合わせだが、「R Low」は車高を下げるためフロントのスプリングを変更してユニット全長を短縮。リア側もスプリングの変更とともに伸び側調整機構を省略して全長を短縮している。加えてシートのクッションを10mm下げることでトータル45mmという大幅なローダウンを実現。これらの見直しにより、キャスター角やトレール量も若干変更されている。ちなみにブレーキシステムは前後ブレンボ製で、フロントはM4.32ラジアルモノブロックキャリパー、リアは片押しシングルピストンタイプを採用。OEタイヤとしてスポーツライディングに最適なピレリ製ディアブロ・ロッソコルサを標準装着する。
電子制御については「RS」とほぼ同様で、ライド・バイ・ワイヤによる4種類のライディングモードを搭載。「ロード」「レイン」「スポーツ」「ライダー」の各モードに合わせてスロットルレスポンスとABS、トラクションコントロールの各レベルを自動的に最適化(「ライダー」は任意設定)してくれる仕組みになっている。角度調整式TFTフルカラーディスプレイに表示された各種情報を手元のモードボタンや5方向ジョイスティックによって操作する方式も同様だ。参考までに上級モデルの「RS」はライディングモードが5種類(「トラック」を追加)で、クイックシフターが搭載されている。
車体デザイン的には「R」と「R Low」は車高以外は共通で、スピードトリプルのイメージを踏襲したアグレッシブで新鮮味のあるスタイリングが特徴となっている。「RS」との外観上の違いはバックミラー形状や、シートカウルとアンダーカウルが省略されていることなど。なお、「R Low」は日本向けの仕様ではなく、グローバルモデルとして展開されている。
トライアンフ ストリートトリプル R Low 試乗インプレッション
足着きは抜群だが
ストローク感が惜しい
単体で見ると、「どこが違うの?」という感じで他のグレードとほとんど見分けがつかない。要はバランスの問題で、「R Low」は車体トータルとして車高を下げる作り込みをしているので自然なプロポーションに仕上がっているためだ。当日は上級モデルの「RS」もあったのだが、並べて見比べてみるとたしかに全体的に低い。細かく見ていくと、フロントフォークのインナーパイプの長さやリアフェンダーと後輪とのクリアランスなどからもそれは分かる。よくありがちなのは、シートのウレタンを削ったいわゆる「アンコ抜き」やリアショックのリンク自体を変更して車高を下げる「ローダウンキット」など。これらは手軽な手法ではあるが、かえって不自然なライディングポジションになってしまったり、ハンドリングに違和感を覚えたりすることも多く、結果楽しく乗れなくなってしまうことも。これに対して「R Low」はトライアンフが設計して実走テストを繰り返して作った、いわばメーカーズカスタムの専用モデルなので当然ながら完成度が高い。見た目のバランスも整っている、というわけだ。
そもそも何故「R Low」が作られたのか、という疑問だが、答えは単純で“足着き”を良くするため。スタンダードのRやRSもシート高は825mmでこのクラスとしては普通のレベルだが、足着きを気にするライダーは日本人だけではないらしい。本国でもリサーチをした結果、ローダウン仕様へのニーズがあることが分かり、これをミドルグレードに設定することで、幅広い層のニーズに応えようということらしい。こと日本において今後はメイン車種として注力したいとのことだ。
跨ってみると、スリムでコンパクト。ワイドで低めなバーハンドルを備えたヨーロピアン・ファイタースタイルで、軽く上体が前傾する戦闘的なフォームもシリーズ共通だ。異なるのはサスペンションの初期の沈み込みが少ないこと。「RS」に跨ると体重でスッと前後サスが沈み込むのに比べ、「R Low」は最初からダンパーが強く効いているような手応えがある。これは明らかにサスペンションの設定の違いからくるものだ。ユニット自体が短くなりストローク量も減っているため、結果的にシート高も大幅に下がっている。その分、足着き性は抜群に良い。たぶん、平均的な日本人サイズであれば問題なく両足が着くはずだし、車重もとても軽いため女性ライダーでも安心して取り回しができると思う。これは大きなメリットだ。
雨の降りしきる富士スピードウェイで「R Low」を試乗してみた。鮮やかなTFTディスプレイは大画面で見やすいし、何よりもそこに表示されるグラフィックが美しく見ているだけでゴージャスな気分になれる。左手元のジョイスティックで簡単にメーターのレイアウトも切り換えられる操作性の良さもポイントだ。
アクセル操作はライド・バイ・ワイヤで軽く、反応もスムーズ。生憎の雨だったので「レイン」モードで走ってみたが、デフォルトの「ロード」よりもさらにレスポンスが穏やかで走りやすかった。それでも、何故か路面が異様に滑りやすかったため、コーナーで立ち上がる度にトラクションコントロールのインジケータが光っていたし、また、下りのストレートエンドではブレーキングでABSのお世話になることも度々だった。コンディションの悪いときほど、こうした電子制御の恩恵を実感する。現代のアグレッシブなスポーツモデルを安全に楽しく乗るために、もはや欠かせないガジェットと言える。
エンジンはトライアンフ3気筒独特のスィートな鼓動感を伴った滑らかな回転フィールが際立っていて、野性味の中にジェントルさを併せ持つトリプルサウンドはいつ聞いても心地よいものだ。新型シリーズでは排気量を90ccほど増やしたことで、トルクフルな中速域がさらに豊かになった。特に「R Low」は「RS」に比べてより低い回転数から同等の最大トルクを発生する出力特性にチューニングされていることもあり、フラットで扱いやすい3気筒の魅力が引き出されている。
ハンドリングも自然だ。前述のように車体トータルでバランスを最適化していて、リアサスのリンク比なども変えていないため基本的には「RS」と同じようなフィーリングで走ることができる。あえて言うならば、キャスター角やトレール量などのディメンションがより安定性重視の方向ということもあり、乗り味は穏やかとも言える。
ただし、ここで苦言を呈さなければならない。「RS」にも同時に試乗したから分かったことだが、フロントで20mm、リアで30mm以上少ないホイールトラベルは路面追従性という部分では、やはりデメリットと言わざるを得ない。これは乗り心地にも言えることだが、足着き性の向上とはトレードオフの関係にあるからだ。その意味ではサーキット走行でしかもウェットで滑りやすい路面という今回の条件は酷だったかもしれない。逆に言えば、サーキット走行が前提の装備とセッティングを施された「RS」は、ワンクラス上のグレードのサスペンションやブレーキ性能とも相まってサーキットではとても乗りやすかった。
スピードトリプルは新型になって、よりパワフルに軽量化され、電子制御のサポートが入るなど全方位的にグレードアップして乗りやすくなった。今回の試乗会でもアナウンスされているとおり、2019年からMoto2の公式エンジンサプライヤーとして新型ストリートトリプルの3気筒エンジンの供給が決定しているなど、信頼性の高さは折り紙付きである。
その中で「R Low」はこのシリーズの持っている個性的な魅力と走りのパフォーマンスを、より身近に味わえるモデルとして幅広いライダーにおすすめできると思う。
トライアンフ ストリートトリプル R Low の詳細写真
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SPECIFICATIONS – TRIUMPH Street Triple R Low
価格(消費税込み) = 125万円
※表示価格は2017年2月現在
デイトナ675の3気筒エンジンをベースに排気量を765ccに拡大した、トライアンフのミドルスポーツネイキッドの最新版。R Lowはシート高を下げたバージョン。
- ■エンジン型式 = 4ストローク 水冷並列3気筒DOHC4バルブ
- ■総排気量 = 765cc
- ■ボア×ストローク = 78×53.4mm
- ■最高出力 = 87kW (118ps) / 12,000 rpm
- ■最大トルク = 77 Nm / 9,400 rpm
- ■トランスミッション = 6速リターン
- ■サイズ = 全長2,045mm× 全幅- ×全高1,060mm
- ■車両重量 = 166kg
- ■シート高 = 780mm
- ■ホイールベース = 1,410mm
- ■タンク容量 = 17.4リットル
- ■Fタイヤサイズ = 120/70-17
- ■Rタイヤサイズ = 180/55-17
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