トライアンフ スラクストン
- 掲載日/2012年12月20日
- 取材協力/トライアンフ モーターサイクルズ ジャパン
取材・文/佐川 健太郎 写真・動画/MOTOCOM 衣装協力/HYOD
60年代テイストをまとった
現代のカフェレーサー
スラクストンは、現代に蘇ったカフェレーサーである。カフェレーサーとは 1960 年代の英国で、若者を中心に流行したカスタムバイクのこと。BSA やノートン、トライアンフなど、当時の英国製バイクをベースに、セパレートハンドルやバックステップ、キャブトンマフラーなどを装着し、当時のレーシングマシン風に仕上げているのが特徴だ。仲間同士で夜な夜な馴染みのカフェに集まっては、公道レースまがいのバトルを楽しんだことから、その名は生まれた。スラクストンは、そんな古き良き時代の雰囲気をまとった、新車で買える現行モデルなのだ。
トライアンフ スラクストン 特徴
クラシックライン随一の
スポーティな走りを実現
1960年代のクラブマンレースを席巻した、往年のレーシングトライアンフの名を冠したトラディショナルスポーツモデルがスラクストンだ。トライアンフには、ボンネビルに代表される伝統の空冷並列2気筒 865cc DOHC 4バルブを搭載するクラシックシリーズがあるが、その中でも最もスポーティなモデルとなっている。
エンジンはボンネビルがベースだが、専用のカムプロファイルやハイコンプピストンによりチューニングされ、シリーズ最強の 69ps/7,400rpm を発生(ボンネビルは 68ps/7,500rpm )。メガホンマフラーが発する小気味よい排気音とともに、ボンネビルよりワンランク上の走りを実現する。
シャーシについては、フレームはボンネビルと共通の鋼管セミダブルクレードルタイプを採用し、しなやかな剛性バランスを追求しつつ、足まわりは独自の仕様で強化されているのが特徴だ。ホイールサイズは、ボンネビル T100 のフロント 19 インチに対して、スラクストンは 18 インチを採用することで軽快なハンドリングを実現。前後サスペンションにはプリロード調整機構が装備され、フロントブレーキはシングルディスクながらフローティングタイプを採用するなど、カフェレーサーに相応しいスポーティな走りを可能にしている。
外観上もメガホンタイプのマフラーやバックステップ、ショートタイプの前後フェンダーを装備。リアシートカバーで覆われたシングル風シート、バーエンドマウントミラー仕様とするなど、60年代カフェレーサースタイルを色濃く残した、ノスタルジックな雰囲気が魅力となっている。
デビュー以来、エンジン、車体とも基本はほとんど変っていないが、大きな変更点としては2008年式から他のクラシックシリーズ同様に F.I. 仕様となり、ユーロ3をクリア。ピークパワーは1psダウンの 69ps となったが、エンジン始動性や実用域でのトルクアップなどにより、扱いやすさは逆に向上している。ライディングポジションも、以前は低めのセパレートハンドル仕様だったが、現行モデルではコンチネンタルタイプのパーハンドルとなり、ステップ位置も適正化されるなど、マイナーチェンジが行われている。欧米では「スラクストンカップ」が開催されるなど、スラクストンをベースにしたネオクラシックレースのファン層も多い。
トライアンフ スラクストン 試乗インプレッション
古典的なスポーティさを味わえる
本格的ネオクラシックモデル
ティアドロップ型のロングタンクやシングル風シート、大径スポークホイールにメガホンマフラーなど、60年代テイスト満載のスタイリングは見ているだけでぐっとくる。そして、タンクに煌めく “TRIUMPH” のロゴ、本物感が違う。この存在感だけでも所有するに値すると思わせる魅力がある。
ホイールベース 1,490mm、乾燥重量 230kg の大柄な車体は、ライディングポジションも大柄。シートも兄弟車のボンネビルよりだいぶ高めだが、セパレートタイプのハンドルだった初期型に比べると前傾も緩くなり、ステップ位置も程良い感じにリセットされ、ライディングポジションはだいぶ楽になった。
見かけはクラシックな並列2気筒 865cc エンジンだが、中味はツインカム4バルブにハイコンプピストンが入った現代的なスペック。等間隔で爆発する 360 度クランクによるエンジンフィールはすこぶる滑らかで、バランサーを内蔵していることもあり、振動はほとんどない。レッドゾーンが刻まれる 8,500rpm 過ぎまでスムーズに回り切る勢いはツインカムならではだ。ベースとなったボンネビルと比べても、明らかに歯切れよく元気なエンジンに仕上がっている。
一方で、同系エンジンでもスクランブラーの 270 度クランクのような「ツイン的な鼓動感」を期待していると、ちょっと当てが外れるかもしれない。高いギアで回転数を抑えてトコトコ走るのも楽しいが、ある程度回したほうがコーナリング中も安定感があり、しっくりくる。さりとて、直4やVツインのようにエンジンに急かされないところが、バーチカルツインの美点だろう。
ハンドリングは独特だ。フロントが 18 インチでリアよりワンサイズ大きいホイールが故、常に前輪の存在感を大きく感じる。19 インチのボンネビル T100 ほどではないにしろ、Uターンのような極低速域では多少前輪に切れ込み傾向も感じるのは致し方ないところ。ただ、速度が上がるにつれ、大径ホイールのジャイロが効いて、まるでレールに乗っているかのように安定感が増してくるのが分かる。スラクストンは高速コーナーが気持ちいいのだ。
車格が大きく車重もあるため、コーナリングは大らかで、倒し込みもライダーの体重移動できっかけを作るのが自然な感じ。タイヤが細く車体もスリムなので、ロール方向への動きはけっこう軽快なのだが、ステアリングに舵角がついてくるのが遅いので、結果としてライン取りはフロントが大回りする感じになる。タイヤも昔ながらのバイアス仕様ということもあり、フロントに荷重をグイグイかけて曲がっていくタイプではない。したがって、ライディングスタイルもハングオフではなく、ライダーがシートの後ろ寄りに座ってフロントを遊ばせてやる、いわゆる “リアステア的” な乗り方がフィットするようだ。ベテランには懐かしく感じられ、今の人には「きっと昔のスポーツバイクはこんな乗り味だったのかなぁ」と、想像が膨らむであろう、ちょっとクラシカルなハンドリング。そこが味わい深いのだ。
ブレーキもシングルディスクだが効力は必要十分なレベル。フローティング構造のため、ブレーキタッチも一定で節度がある。レバータッチも適度なストローク感があり分かりやすい。スラクストンは古典的テイストの中にも現代的な走りの楽しさも併せ持ったモデルである。威風堂々としたノスタルジックなスタイリングは、年配ライダーからお洒落な若者、はたまた女性ライダーが颯爽と乗ってもキマると思う。カフェレーサーは現代の主流ではないかもしれないが、今だから逆に新鮮に映るのかも。ぜひ、違いが分かる大人のライダーに乗っていただきたい1台である。
トライアンフ スラクストン の詳細写真
SPECIFICATIONS –TRIUMPH THRUXTON
価格(消費税込み) = 131万2,500円
トライアンフ伝統の空冷並列2気筒エンジンを搭載するネオクラシックモデル。60年代テイスト溢れるカフェレーサースタイルが魅力。
- ■エンジン型式 = 空冷DOHC 並列2気筒 360度クランク
- ■総排気量 = 865cc
- ■ボア×ストローク = 90×68mm
- ■最高出力 = 69PS(51kW)/7,400rpm
- ■最大トルク = 69Nm/5,800rpm
- ■トランスミッション = 5速
- ■サイズ = 全長2,150×全幅830×全高1,095mm
- ■車両重量 = 230kg
- ■シート高 = 820mm
- ■ホイールベース = 1,490mm
- ■タンク容量 = 16リットル
- ■Fタイヤサイズ = 100/90 18
- ■Rタイヤサイズ = 130/80 17
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