トライアンフ スラクストン(2016)
- 掲載日/2016年07月15日
- 写真・文/田中 宏亮
取材協力/トライアンフ モーターサイクルズ ジャパン
トライアンフ スラクストン 試乗インプレッション
ネオクラシックのあるべき姿を
突きつけるトライアンフの答え
正直言うと、水冷バーチカルツインエンジンに対して疑問がないわけではなかった。私自身、7年ほど前に空冷ボンネビルT100を所有していたことがあり、シャープなフィーリングが特徴の水冷化はツインエンジン特有の味わいを損ねてしまうのでは、と思っていたからだ。
その思い込みは、走り出した途端、驚きとともにすべて消し去られてしまった。確かにキレのいいフィーリングだが、エンジンが奏でる鼓動はツインならではの小気味いい振動で、とても水冷化したものとは思えない心地よさを味わわせてくれる。スロットルをひねればドドドドっと野太いパワーが体全体に伝わってきて、力強くて勢いのある加速を楽しませる。街中でなら2速パーシャルで引っ張りつつ、見通しの良い道路で一気に3速にあげてスピード感を体感する。高速道路に入れば、さらに上のギアでトップスピードへと引き上げ、速すぎないライディングの世界へ飛び込んでいける。
ここで気になるのが、3つのエンジンモード切り替え機能だ。スタンダードな「ROAD」モードはツインエンジン特有の味わいを残しつつ、快適なストリートライドを楽しませる性能がベースとなっている。続いて「SPORTS」モードに切り替えると、まさにその名のとおり、「ROAD」モードよりもクイックな加速が魅力のピーキーな仕様へと変貌。よりアクティブなライディングを楽しみたい人は、この「SPORTS」モードをとことん追求するのがいいだろう。「RAIN」モードは雨天時における挙動をセーブする仕様で、このモード時の発進は「ROAD」モードに比べてかなり鈍い。これは、急な加速でスピンしないよう配慮されたものなのだろう。ライド・バイ・ワイヤ機能を土台に3つのキャラクターが付与されたと考えると、かつての空冷スラクストンと比べたらその進化の度合いは計り知れない。
身長174cm/体重74kgのライダーによるライディングポジション
フットワークについて、さらに上のグレードとなるスラクストンRの装備はこのスラクストン以上ではあるが、常にワインディングやサーキットを走りたい人でなければ、スラクストンのサスペンションやブレーキングシステムで十分だと思う。ワインディングでもしっかりと沈み込んで、ちょうどいいタイミングで立ち上がってくれるなど、その性能に疑いの余地はなかった。ここに17インチスポークホイール & ピレリが誇る渾身のロードタイヤ「エンジェルGT」が組み合わさるのだ、ネオクラシックなどという呼び方では物足りなくなるほどロードスポーツ然とした性能を見せつけてくる。街中やツーリングであれば、必要にして十分な能力を有していると言えよう。
これらの走行性能を支えるボディデザインも、しっかり煮詰められている。跨ってみてまず感心するのが、ボディの細さだ。クラシックカフェに見られるデザインを踏襲したフューエルタンクはニーグリップ部分が細くなっており、両脚でしっかりと挟み込むことができる。その細さは20cmないほどで、そこそこ横幅があるはずのバーチカルツインエンジンの大きさを微塵も感じさせない。これでラバーグリップを備えれば、これ以上ないホールド感を得られることだろう。
カフェレーサーといえば、アンダーマウントのセパレートハンドルに後ろめに設置されたバックステップによる窮屈なポジションから、前かがみ姿勢を余儀なくされて前方を見続けていると首の後ろが痛くなってくるものだ。しかしこのスラクストンは、ハンドル位置がまるでバーハンドルのような高さにあり、なおかつバックステップもそれほど後ろに位置していないので、比較的上体が起きたライディング姿勢となる。1~2時間走っても、首が痛くなることはまずない。
その昔、空冷スラクストンに多く乗る機会に恵まれたことがあるのだが、正直言って比べものにならないほど乗りやすくなっている。ボディサイズがコンパクトになったのも要因として大きく、1,510mmという空冷スラクストンのホイールベースに対して、新型スラクストンのホイールベースは1,415mmと、10cm近く短くなっているのだ。そこにバージョンアップしたフットワークと前後17インチホイール、ピレリ・エンジェルGTという組み合わせが加わるのだから、コーナリングが一層快適になったのは当然のことと言えよう。
よりフレンドリーに、よりスポーティに進化した新型スラクストン。それも、先代モデルの持つ味わい深さやビジュアルを継承して。「ネオクラシックとはこういうものだ」というトライアンフの強烈なメッセージを突きつけられた想いだ。
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