
「サンダーバード」という名を冠したモーターサイクルが世に登場したのは、今から半世紀も前のこと。当時トライアンフが挑戦の意を込めて開発したモデルで、以降、その名は同メーカーを語る上で欠かせない伝統あるものとなっていった。そして2009年、サンダーバードは排気量1,597ccの水冷DOHC並列2気筒エンジンという心臓を持つクルーザーとして、我々の前に姿を現した。その外観はまさしく典型的なクルーザーのそれで、「長い歴史を持つトライアンフのなかでも特別な存在感を放ってきたサンダーバードが、なぜ今クルーザーとして登場するのか」という疑問と違和感を抱かずにはいられなかった。生まれ変わったこのモデルには、トライアンフのどんな想いが込められているのか。サンダーバードを検証するには、クルーザーというカテゴリの大御所ハーレーダビッドソンとの比較が欠かせないだろうと、ハーレーに乗る機会が多いバージンハーレー担当者である僕が、その魅力に迫るべく試乗を行った。
やはり目を引くのは、そのスタイリングだ。ハンドル、タンク、シート、フェンダーの形状、足回り、ステップ位置……。当然と言えば当然なのだが、外装だけならスタンダードなクルーザースタイルである。特に普段からいろんなハーレーを目にする僕にすれば、一部を除けばハーレーの現行モデルに似すぎているぐらいだ。唯一違和感を抱かせるその一部というのが、水冷のバーチカルツインエンジン。Vツインエンジンを搭載したクルーザーが多いだけに、その既成概念がこのスタイルを受け入れ難くする。だが、実際に乗り始めてみた途端、その既成概念がちっぽけなものだったことを痛感させられた。まず滑らかな発進に驚かされ、1,597ccという大排気量のトルクを味わわせてくれつつも、スムーズかつ安定感のある走行バランスに感心してしまった。ボディのサイズはハーレーのソフテイル・クラスほどの大きさなのだが、クルーザーにありがちな鈍重さは皆無。逆に滑らか過ぎるがゆえ、エンジンブレーキはハーレーほど強力に効かないという側面を持っているが、国産系モデルなどから乗り換える人にとっては十分なもの。フロントはダブルディスクが搭載されており、ここに高い制動性が備えられている点は見逃せない。これらを踏まえれば、「クルーザーでこれほど走る」ことに対する心地良い驚きが薄れることはない。
特に楽しめたのが、走行性能の高さだ。正直、自分がクルーザーに乗っていることを忘れてしまいそうなほどスポーティで、ワインディングを攻めたとしてもライダーの要求に応えられるだけの力を持ち合わせている。長距離ツーリングに用いたとしても、ストレスなく走り続けられるだろう。クルーザーに快適な走りを求めるユーザーにとっては、見逃せないモデルだと言える。一点だけ要望を言わせていただければ、ソロシートにもう少しホールド感が欲しいところ。加速も滑らかなうえに制動力に余裕があるので、気持ち良くスピードを上げられるのだが、シートがかなりフラットなため加速すればするほど体が後ろにずれていくのだ。聞けば、ツーピース型のタンデムシートがオプションであるとのことなので、気になる方は取り付けてみてはいかがだろう。ハンドル幅が広いので曲がる際には反対側の腕が遠くなってしまうが、僕自身はそれほど突っ張る感じはしなかった。またステップ位置も足が前に突き出すフォワードコントロールになっているものの、身長173センチの僕でも膝が曲がる余裕がある。平均的な日本人体型に優しいライディングポジションの設定となっている点は、我々としても嬉しいところだ。サンダーバード専用のオプションパーツも豊富に揃えられているので、ツーリング時の積載が気になる方はカタログとにらめっこしてみるといいだろう。
「サンダーバードと言えば、トライアンフの古い名車」という認識は、もはや少数派になっているのだろう。この名前をたどっていくと、1951年まで歴史を遡ることになる。当時は第二次世界大戦終結から数年後の時代で、ヨーロッパのモーターサイクル・メーカーが市場開拓を目的に、アメリカ市場に参入し始めていた。トライアンフもそのなかの一社で、同社はそれまで得意としていたスポーツモデルではなく、アメリカの土壌に合ったツーリングモデルの投入を計画。そして生まれたのが、「6T サンダーバード」だったのだ。15年に渡って人気を博したサンダーバードは、その後ボンネビルやトロフィーといった現代に語り継がれる名車の礎となり、トライアンフ社を支え続けた。しばらくラインナップから姿を消していたが、1998年に3気筒エンジンを積んだネイキット型スポーツモデルとして復活。現トライアンフのフラッグシップ・モデルである現行のボンネビルが誕生する2001年まで、人気モデルの一台として君臨した系譜を持つ。こうした歴史を振り返ってみると、サンダーバードはいつの時代もボンネビルをはじめとする人気モデルの影に隠れがちな印象がある。だが、トライアンフというメーカーが新しいスタイルを導入するときの一番手に選ばれているのがサンダーバードであるのもまた事実。今回水冷2気筒エンジンを搭載したクルーザーに姿を変えたわけだが、これこそトライアンフというメーカーの新たなチャレンジ精神を感じるポイントで、初代、2代目の印象を強く持つユーザーにとっては違和感があるやもしれないが、このスタイルはこれから加速するトライアンフの意気込みとも取れる。そう考えれば、クルーザー型サンダーバードの存在意義はこちらが想像しているより大きいと言えるだろう。
時代を切り開く際の“切り込み隊長”サンダーバードにも基本哲学はあり、この3代目もその流れを踏襲している。それがインプレッションでも語った「スポーツ走行性能」だ。初代がアメリカ市場を席巻したとき、もっとも注目を集めたのがこの走行性能の高さ。当時のアメリカでは、ハーレーダビッドソンやインディアンといったモーターサイクルが主流で、ともすれば異端とも取られるサンダーバードのスタイルは、鷹揚なアメリカ人に新鮮さをもって歓迎された。結果、ハーレーは「対英国モーターサイクル」を掲げ、スポーツスターに繋がるKモデルの開発に着手した。現在日本の市場におけるクルーザーというカテゴリにおいて、ハーレーダビッドソンの存在感は圧倒的である。そこにクルーザーに姿を変えたサンダーバードが、ハーレーのビッグツインを凌ぐスポーツ走行性能を引っさげて登場したというのは、半世紀前の再現のようで非常に興味深い。「クルーザーで気持ち良くツーリングがしたい」というユーザーにとっては、悩ましい選択肢が増えたということになろう。実際、ゆとりのあるシートにワイドなハンドルバー、フォワードコントロール、分厚いリアタイヤと、スタイリングだけを見ればハーレーをはじめとするクルーザーとまったく同じ要素を持っている。しかし実際に乗ってみると、まるで違うモーターサイクルであることが分かる。「クルーザーだって、ここまで走行性能を高められるんだ」というトライアンフのメッセージが込められた渾身の一台。クルーザー市場に対する挑戦状とも言える大胆不敵な登場を果たしたサンダーバードだが、そのポテンシャルは一目置いてしまうほどに高い。試してみれば、分かる。
価格(消費税込み) = 198万4,500円
2009年、スポーツクルーザーというスタイルとなって復活した往年の名車。従来のクルーザーのイメージを覆す、トライアンフの挑戦とも言える一台。