トライアンフ タイガー800XCx
- 掲載日/2015年08月06日
- 取材・写真・文/西野 鉄兵(『アウトライダー』編集部)
『TIGER』を冠する歴代モデルは
オフロードも走れる性能を追求した
トライアンフで『タイガー』という名称が初めて使われたのは1930年代。これは同社の伝統ネーム『ボンネビル』や『トロフィー』よりも、はるかに昔のことだ。社名や経営母体が幾度の変遷を経ても、車種名は引き継いできた。伝統を重んじる英国人の魂を感じる。
その『タイガー』を冠した車種だが、当然ながら1930年代当初から現在のようなルックスだったわけではない。いま見ればクラシカルかつシンプルで、一見すると2015年の現行モデル『スクランブラー』に近い。ただ、歴代タイガーの多くはアップマフラーが特徴で、オフロードも走れる性能を追求してきたことがわかる。
トライアンフ タイガー800XRx 特徴
タイガー800シリーズを進化させて
最新の電子制御システムを搭載
現在のようなデュアルパーパスやアドベンチャーにカテゴライズできるスタイルになったのは1993年デビューの『タイガー900』から。その後、2010年に現行モデルの直系である『タイガー800』と『タイガー800XC』が登場した。
そして2015年1月に発売されたのが『タイガー800XRx』と『タイガー800XCx』。タイガー800XRxはオンロード志向、タイガー800XCxはハードなオフロードも念頭に置いた作りとなっている(XRはクロス・ロード、XCはクロス・カントリーの略)。なお、末尾に“x”が付かないベースモデルとして『タイガー800XR』と『タイガー800XC』も併売している。これらは電子制御システムやクルーズコントロール、センタースタンド、ハンドガードなどが省略された。また、タイガー800XRx、タイガー800XCxのさらに上級モデルとなる『タイガー800XRT』と『タイガー800XCA』も2015年7月に限定導入。これらはグリップヒーターやシートヒーター、パニアレールなど、ツーリングを快適にするアクセサリー類があらかじめ装着されたシリーズのトップエンドとなる。
トライアンフ タイガー800XRx 試乗インプレッション
スムーズで扱いやすいエンジン特性と
やわらかな乗り心地が旅に向いている
エンジンは、排気量799ccのDOHC4バルブ水冷並列3気筒。好評だった前作をベースに、内容をブラッシュアップさせたものとなる。ライドバイワイヤーが採用され、電子制御が可能となった。さらに新型のフューエルインジェクション、カムシャフトなどにより燃焼効率を飛躍的にアップ。トルク特性を向上しつつ、燃費は17%も伸びた。静粛化や排出ガス性能も向上し、フィーリング自体が異なるものに生まれ変わっている。
走ってみた印象では、非常にスムーズな出力特性でクセがなく、すぐに身体になじむ。3,500回転くらいまではやや物足りない感じもするが、高回転型かつ滑らかに回る3気筒エンジンであるため、そこからがおもしろい。低速から高速まで一定のリズムで加速し続けるので、大型バイク初心者でも怖さは感じにくいだろう。シフトフィールも見直され、より滑らかで心地良いシフトチェンジが可能になった。
このマシンの最大の特徴は、前述の最新エンジンを思いのままにコントロールする『ライディングモード』機能だ。電子制御により、スロットルマッピング、トラクションコントロール、ABSの設定を変えられる。
スロットルマッピングは『RAIN』『ROAD』『OFF ROAD』『SPORT』の4種類。この設定を変えることで、まるで別物のエンジン特性に様変わりする。なかでもSPORT設定は、もっともアグレッシブでピーキー。前傾姿勢をとって峠道を本気で攻めたいときなどに使う。しかし、それだけではスポーツバイクのようで、ロングツーリングでは疲れてしまうだろう。そのため、標準的で扱いやすいROAD設定があり、さらにウエットな路面のときにも安全に優しく走るためのRAIN設定もある。OFF ROAD設定は、ROADとSPORTの中間程度の出力特性だ。
トラクションコントロールは『ROAD』『OFF ROAD』と、解除のための『OFF』の3段階。OFF ROAD設定での介入度は非常に高く、林道で突き出た石に乗り上げて通常なら空転してしまうところも、しっかりと制御し、地面を噛み、後ろから人に支えてもらっているかのような安定感で前進する。昔からオフロードバイクに乗っている人には、「ちょっと過保護すぎるのでは」と思えてしまうほどの安心感だろう。オンオフ問わず、濡れた路面でも力を発揮するので、空転による転倒のリスクは激減する。同様に、ABSも『ROAD』『OFF ROAD』『OFF』を任意で設定できる。
ここまで読んで「いちいち設定とか面倒だな」と思った人もいるだろうが、安心してほしい。メーター脇に搭載されたスイッチひとつで、大まかにライディングモードの切り替えを行なえる。そのライディングモードは3種あり、『ROAD』『OFF ROAD』『RIDER』となる。通常にオンロードを走るならROADモードにしておけば、スロットルマップ、トラクションコントロール、ABSはいずれもROAD設定になる。OFF ROADモードも同様。最後のRIDERモードだけが、前述のようにそれぞれを組み合わせることができるのだ。
エンジン、電子制御システムとともにタイガー800XCxの特徴といえるのが、サスペンションである。モトクロスのレースで培われた高性能のWP製サスペンションが前後に採用された。このサスペンションがオフロードでの卓抜した走破性をもたらし、オンロードでも滑らかで心地良い走りを実現する。オンロード志向のタイガー800XRx(ショーワ製の前後サスペンション)と乗り比べると違いは歴然で、タイガー800XCxは非常にやわらかい乗り味。ハイスピードで道路の継ぎ目などを乗り越えても、足まわりだけでショックをほとんど吸収する。アップライトなライディングポジションで、ゆうゆうとロングツーリングを楽しむのに最適な仕様となっているわけだ。
ロングツーリング性能という点では積載性の高さや、高機能トリップメーター、2カ所の12V電源ソケットといった標準装備のアクセサリー類もうれしい。
このライディングポジションとサイズ感は、日本人男性の平均身長(171cmといわれる)程度で一般的なライディングテクニックを持っている人が“不安なく操れるギリギリのサイズ”ではないかと筆者は思う。これ以上に大きくなると、街乗りや林道が途端に億劫になりそうだ。かといって小さくなると存在感が薄くなる。充分な存在感と扱いやすさを両立したこのサイズは、英国と同じ島国である日本の道路環境にも合っている。
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