ニュー・タイガー800シリーズ(2015) 海外試乗記【後編】
- 掲載日/2015年01月23日
- 写真/トライアンフ モーターサイクルズ(Alessio Barbanti, Paul Barshon, Matteo Cavadini, Freddie Kirn)、
VIRGIN TRIUMPH.com編集部
取材協力/トライアンフ モーターサイクルズ ジャパン 取材・文/田中 善介
トライアンフのスポーツアドベンチャー
タイガー800XCxの試乗では、硬く締まったフラットダートがメインのオフロードセクションを走る。スタイルこそアドベンチャーを標榜するモデルはよく見るが、このタイガー800XCxはどうだろう?というところが気になる。
XRxと比べてハンドルはやや遠い印象。走行中は肘を気持ち外側へ張るようなポジションが落ち着く。スクリーンはXRxに比べて長くなっているが、視界の邪魔になるほどでもない。
ホテルを出発してほどなく、舗装路から未舗装路へ足を踏み入れたあたりで一旦停まり、走行モードを「オフロード」に切り替える。ノーマルタイヤ(ブリヂストン BATTLE WING BW501)に空気圧はパンパンの状態だ。全員がモードの切り替えを完了し、それを確認した先導は意気揚々とダートへ駆け入り、砂塵を宙に残して走り去ってしまった。
フロント21インチホイールと強靭な足回り
そんな先導の後姿を見て「もしかしてイケるのか?」と、いたずらにブレーキやスロットルを操作してみると、TTCとABSが適度に介入してくる。感じ方に個人差はあるだろうが、タイヤの滑りはじめから介入の瞬間をライダーに知らせるというよりは、むしろ“気にしなくてもいい”味付けのようだ。
タイガー800XCxの走り
前後ホイールはワイヤースポークでフロントホイールサイズは21インチ。WP製サスペンションを装備したタイガー800XCxは、オフロード走行でXRxとはまた異なる一面を見せてくれた。わざとギャップに飛び込んだり、バタバタと凹凸を横切ってみたり、急加速&停止を繰り返しながら車体からの反応をうかがっていると、その程度では破綻する様子がほとんどない。感覚としては、サスペンションの先(バネ下)のほうで激しくホイールが暴れながらも、車体にその影響を及ぼさないイメージだ。じつに楽しい…。
先代モデルで日本の林道を走行したときの体験を思い返してみると、印象に残っている車体の“重量感”が薄くなっている。スペック上で比較するとXCxが221kgで先代のXCが225kgと、実際に4kg軽くなっているというのもあるが、体感ではむしろ“軽快”ですらある。
ちなみに、車両に跨った際にやや遠く感じていたハンドルは、スタンディングポジションで具合が良くなるよう設定されていたことも確認できた。
スイッチ操作でカンタンに、安心のオフロード走行を実現する電子デバイス、それに信頼の置ける足回り、となれば自ずと気持ちはアグレッシブになってくる。ギアはローとセカンドを適度にチェンジしながら、スロットルを捻る右手はさらに気前良くなってくる。それに即応してエンジンがビュンビュンと吼える。「加速したい、減速したい、曲がりたい」というライダーの要求(操作)に素直に従ってくれるのだ。
200kg超級のアドベンチャーモデルがダート上で軽快に感じる大きな要因は、この優れた電子制御によるスロットルレスポンスと、強靭な足回りによるものだろう。
ワインディングではXRxよりも若干おおらかな印象で、シートに身体を預け、リアで曲がっていくようなイメージで走ってみると具合がいい。走行モードを「ライダー」に、スロットルマップを「スポーツ」にセットして、今度はやや前傾で走ってみると、これがまた胸がすく爽快な、それでいて豪快な走りを体験させてくれる。ここでもホイール移動量がXRxよりもフロントが40mm、リアは45mm長いWP製サスペンションの働きは優秀で、縦方向のフワフワとした柔らかさは無く、イニシャルはソフトに、奥のほうでジンワリと腰のある粘り強さを感じる。
旅を楽しむモーターサイクルとして
途中、クルーズコントロールも試してみたが、使い勝手はいたって良好。右手のスイッチ操作ですべてが完結する。しかしミドルクラスのアドベンチャーモデルにクルーズコントロールとは、良い意味で違和感を覚えずにはいられない。車体も価格も、もっとハイグレードなモデルに装備される贅沢機能だと思っていたが、それを“x”の標準装備にしたということは、これもメーカーがユーザーの要望に応えた結果なのだろう。
林道やキャンプをモーターサイクルで楽しみたい、移動距離は長く、お楽しみタイムも長く。そんなユーザーにタイガー800XCxはうってつけだ。もう少し本気で、スポーティにオフロードを楽しみたければタイヤを換えればいいだけだし、オフロード狙いでなければXRxという選択肢もある。容量も豊富な専用の純正積載アイテムを追加で装備してしまえば、もう十分ではないだろうか。
3気筒エンジンがあったからこそ
ニュー・タイガー800シリーズの開発について、チーフエンジニアであるスチュアート・ウッド(Stuart Wood)氏にお話をうかがうことができた。
旧タイガー800シリーズが車体全体にわたってブラッシュアップされ、ほぼブランニューとしたそもそもの理由は、成長市場にあるアドベンチャーツーリングのカテゴリで、トライアンフモーターサイクルズも進化をしたに過ぎない。
特に、トライアンフが得意とするトリプルエンジンが“第2世代”へと進化を遂げたことに、強い自信を持っているようだ。パワー特性やサウンドといった3気筒ならではのキャラクターに、ライド・バイ・ワイヤーという電子制御を組み込み、同じくトリプルエンジンを搭載するスポーツモデルからパーツを一部共有し、よりコントローラブルでクリーンなエンジンを実現した。それによって、幅広く繊細な走行モードの設定が可能となり、ライディングの可能性がグッと広がったのだ。
「もはやターゲットはすべてのライダーと言っていい」
100%の自信を見せるウッド氏の話は、2日間の試乗を体験した身としては否定や疑問の余地が無かった。ユーザーニーズの抽出には実地調査を行い、走行モードについても社内で大きなチームを結成し、走行テストを繰り返しながら煮詰めていったという。やたらと“走らされた”感のあった試乗スケジュールは、ライダーの感性に訴えかける、自慢のプロダクツを存分に味わってもらいたかったからなのだろう。各国のジャーナリストを受け入れてきたスタッフたちも、その表情には自信と楽しさが表れていたと思う。
肝心の販売価格だが、旧タイガー800シリーズとxシリーズを比較すると安くはない(およそ20万円前後増)。しかしxシリーズに装備される機能は後で追加できるものではないし、そもそもその差を余裕で上回る価格価値があるということは無視できない。購入を考えるなら、プライスではなく絶対に試乗してから検討するべきだ。その機会は各販売店に用意されているのだから、行かない手はない。
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